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パラキン3新刊
すでに手元にあるので、7/3のパラキンで確実に出ます。
……めずらしい!(常にギリギリ人生のため) B6/フルカラー表紙/オンデマンド/40P/予価300円/R-18 K・尊礼の小説本。本編軸(1期前&2期後)です。 酒と尊礼の、4月に起こった話を4本収録しています。尊礼が喧嘩したり悪態つきあったり酒飲んでたりセックスしてたりする話の詰め合わせです。脈絡はないですが一応全部の話は繋がっています。 そういうシーンがあるため一応R-18ですが、詐欺レベルにぬるいので期待したらダメなやつです。 通販はイベント後に余ったら考えます。 中身のサンプルは以下。折りたたんでおきます。
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【クロニクルキー/花篝】サンプル 「こんばんは、良い夜ですね。……なぜ、貴方がここにいるのでしょう?」 「んなの、俺の勝手だろ。なんで、いちいちテメェに断る必要がある」 「では、言い換えましょう。なぜわざわざ寝心地の良いねぐらを抜け出して、こんな時間にこんななにもない場所で油を売っているんですか?」 「だから、俺の勝手だ」 なぜか宗像は、またしても特に見たくもなかった顔を視界に入れる羽目に陥っていた。まったくもって、不本意だ。 おそらくは目の前で煙草をくわえたまま苦虫をかみつぶしたような顔をしている周防も、同じようなことを考えているのだろう。なぜ、またしてもこの顔とはち合わせるような事態に陥っているのか、と。 昼間に勃発した王同士の力のぶつかり合いは、いつも通り決着がつくことなく、いい加減にしろと言いたげなそれぞれのクランの幹部たちの横やりを機に時間切れを迎えた。すでに恒例になってしまった結果だ。 言ってしまえばただの喧嘩に等しい対峙ではあったのだが、まったくの無駄でもない。力の制御に気を遣うことなく思う存分暴れて少しは気が晴れたのか、深いため息を吐く草薙出雲とにこにこと楽しげに笑う十束多々良を両脇に従え煙草に火をつけながら踵を返す周防の表情が、ずいぶんとすっきりしたものになっていたことには宗像も気づいていた。 だからこそ、こんな時間にこの男がこんな場所にいるのだろう。それは、なんとなく理解できる。 否、こんな時間――日付が変わるまであと一時間、といった時分に周防が外をうろついているのは、さほどおかしくもない。年中寝ているせいでつい忘れがちだが、この男は本来夜行性だ。先ほどのように、昼間に外でかち合うこと自体が稀なのである。 なので、もしこの時間にもっと別の場所で偶然遭遇したのなら、宗像ももう少しくらいは違う反応を示しただろう。嫌味の種類が変わるだけの気もするが、それでも自分自身の運の悪さを嘆くだけですんだかもしれない。周防が足を向けるような場所に来てしまったのが運の尽きだ、と。 だが、ここは公園だ。それもかなり小さい、子どもが遊べる遊具すらないような空間である。 それでも花壇や植え込みは綺麗に整備され、ベンチもいくつか置かれていた。コンクリートとアスファルトに埋め尽くされた都心部においては、狭くても十分に緑のオアシスとしての役目を果たす。 なにより、今の季節は公園の狭い敷地を囲むように植えられた何本もの桜の木が見事だった。ちょうど、満開だ。 宗像は今夜、この桜を見に来た。椿門の屯所内にも桜の木は植えられているが、なんとなく外へと足を伸ばしたくなったのだ。宗像が屯所内でなにをしていようと今さら驚く人間もいないだろうが、なんとなく他の人間に会いたくない気分だった。 ――それは、まあいいとして。 問題は、そうやって出てきた目的地で、なぜか知っている顔がベンチでふんぞり返っている事実だ。 「どういう風の吹き回しですか?」 考えてもまったく答えが見えそうになかったので、宗像は素直に聞いてみることにした。もっとも、まっとうな答えが返ってくるとは思わなかったが。 この小さな公園は、椿門からはちょっとした散歩にちょうどいいくらいの場所に位置している。つまり、鎮目町からは決して近くない。歩こうと思えば歩けないことはないが、好んであの距離を歩く人もそう多くはないだろう。かろうじてまだ電車が動いている時間ではあるが、周防尊という人物がいちいち電車に乗ってここまで来たとは考えにくかった。 そもそも花見をしたければ、鎮目町周辺にいくらでも出来る場所がある。わざわざ、こんな遠くまで足を運ぶ必要はどこにもない。 (理由があるとすれば……知っている人に会いたくなかった、とか?) だとすれば、ご愁傷様だ。だが、宗像もどちらかといえば今は知っている顔は遠慮したい気分なので、お互い様だということにしておきたい。 「べつに」 「そうですか」 案の定、知りたい答えは返ってこなかったが、予想の範囲内だ。それに周防がなにを考えてここにいるのかなんて、正直なところどうでもいい。 結果として、青の王となって以来ずっと続いている偶然の邂逅の回数が増えただけだ。馬鹿馬鹿しくて、数を数えることはとうの昔にやめてしまった。 それでも、すでにこの偶然に慣れてしまった気はしていても、この仏頂面は見ていて楽しい顔ではない。 「特にこの場に用があるわけではないのでしたら、早く目的地に行かれたらどうです? 今更、貴方から挨拶らしい挨拶がなくとも気にしません。一刻も早く、貴方の姿が見えなくなる方がありがたいですしね。私はここに夜桜を見に来たばかりですので、もう少しばかり堪能していきたいのです。さあどうぞ、どこへなりとご自由に」 「……なんで、テメェに譲ってやらなきゃいけねぇんだよ」 「譲る? ここで私とえんえん顔を付き合わせているよりは、貴方の気分的にも良いのではないかと思ったのですが……もしかして、貴方もこの公園に用があるとでも? 周防」 首を傾げながら、改めて辺りに視線を向けてみる。眼鏡のレンズ越しに広がる視界はやはり、公園の外灯に照らされた一面の薄紅色だ。穏やかな風にさわさわと枝を揺らし、はらりと小さな花びらが舞い落ちる。 特にライトアップされているわけではない。それでも外灯が放つほのかな灯りを受けて浮かび上がる満開の桜は、幻想的な雰囲気を醸し出していた。 人の気配も、ない。公園にいるのは今、宗像と周防のふたりだけだ。 花見をするには絶好のシチュエーションだが、それ以外になにかをするには向いていない。他人を気にせず煙草を吸うにはいい場所かもしれないが、そもそもこの男がそんなものを気にするはずもなかった。 なので、宗像としては極めて純粋な疑問から発した問いだったのだが。 「んなとこに花見以外のなんの用があるってんだ」 「……まさか、貴方にも花見をする気があったとは。じつに意外です」 思ってもみなかったことを返されて、つい目を丸くしてしまった。まじまじと、目の前の男を見遣る。 「…………」 宗像に驚かれたことが不本意なのか、周防の仏頂面が先刻よりもひどくなっていた。通りすがりの子どもが見たら、泣きながら逃げていきそうな迫力だ。 周防自身に自覚があるかどうかは定かではないし、宗像もそれについて指摘する気はまったくもって少しもない。なので、他に誰もいないこの状態で、周防のなんとも言い難い形相について言及する者は残念ながら存在しなかった。 「そうかよ」 「どちらかといえば、花より団子の人かと思っていましたが」 「うるせえ」 不機嫌そのものといった顔つきのままだが、周防は花より団子に関して否定はしなかった。その点に関しては当たらずとも遠からず、といった感じなのか。 ただ、人間を眺めているよりは自然を眺めているほうが好きなのかもしれない。それは、宗像にもなんとなく伝わってくる。 そもそも、周防が他人に対して興味を抱いているようには思えなかった。数少ない例外はたぶん、彼のごく身近にいるクランズマンたちだ。だが、おそらくは彼らとて、周防が自ら近づいていったわけではないはずだ。近づいてきた彼らを、周防が受け入れた。そんな関係性だろう。 独りでいることを好んでいるわけではないが、人はさほど好きではない。それが、周防尊という人間だ。人そのものが好きな宗像には、わかるようでわからない感覚である。 ――だからこそ、気になるのかもしれない。知らないことを、知りたくなるのかもしれない。 顔を合わせて実際に言葉を交わせば、気にくわないことばかりだというのに。 「では、本気で花見をしにここまで?」 「悪ぃか」 「悪くはありません、先ほども言いましたが意外だっただけです」 「……最初からそのつもりだったわけじゃねぇ。たまた目に入っただけだ」 フラフラしていたら偶然この公園を見つけ、桜が見事だったので花見をする気になった……というところだろうか。その計画性のなさは、さすがだ。 とりあえず、周防にここから動く気はないらしい。そしてもちろん、宗像もこの場を譲る気などない。なにしろ、ここで夜桜を堪能するためにわざわざ屯所から出てきたのだ。 「そうですか。でしたら、仕方がありませんね」 「さっさと帰る気になったか」 「ご冗談を。貴方までいるのは予定外ですし若干目障りでもありますが、無理に排除するための労力を使う気もありません」 今までも、何度もこんな状況に陥ってきた。お互いに譲る気が欠片もない以上、妥協するしかない。 「それに、貴方は黙ってさえいればそこまで邪魔でもないことに最近気づきました」 「うるせえのはテメェのほうだろ」 「私の口が達者なのは生まれつきの性分です。そういう貴方も、日頃は単語を口にすることすら面倒がっているくせに、悪態を吐くときだけはやけに饒舌ですけれどね」 好き勝手に言い放ってから、宗像は我が物顔でベンチを占拠している男の隣に腰を下ろした。仏頂面がしかめっ面になったのが視界の隅に見えたが、そんなものは今さら気にしない。 無視しようにも無視できない強烈な気配はどうしようもないが、こうしておけば横へと視線を向けない限り姿は目に入らないというものだ。ほう、と息を吐いてから視線を上へと向ける。 広がるのは――紺碧の夜空に浮かび上がる、薄紅色の桜だ。 まるで、満開の桜に包まれたような気分になる。 「見事ですね」 べつに、返事を期待したわけではない。そもそもその瞬間、宗像は隣に人がいることをまったく意識していなかった。圧倒的な光景を目にしたせいで自然と口からあふれた、完全な独り言だ。 立っていたときに見ていた景色と同じはずなのに、視点が変わっただけで世界も変わる。魅入られる。 そのまま、じっと柔らかな風に乗って空を舞い散る桜の花びらを見つめていたら。 「ッ!?」 突然、頬に濡れた冷たいものが押し当てられた。驚いてそちらに目をやると、そこには悪戯を成功させてた子どものように笑っている周防がいる。どう見てもタチが悪いとしか表現しようがない笑みなのに、心なしか得意げでもあった。 その手は、宗像の頬に伸びている。手にしたなにかを押しつけているのは間違いないのだが、ここからではその正体がわからない。 「な……んですか」 驚かされたことへの若干の不満を視線と口調で訴えれば、周防の口角が上がった。 じつに楽しそうだ。そんな表情を目の当たりにしてしまうと、宗像としては逆に眉間にしわが寄っていくのだが。 「ん」 「……はい?」 宗像の機嫌があからさまに傾く寸前のタイミングを見計らったかのように、周防が口を開く。次いで、ベンチに座っていた膝の上にぽんと投げられたのは、見慣れたスチール缶だ。あ然としながらもラベル部分に目を落とせば、ビールと書いてある。 「やる」 「……それはどうも、ありがとうございます」 ぱちりと目を瞬かせながら、おもむろに膝の上に転がる缶ビールを拾い上げた。 手にしてみれば、かなり冷たい。缶の周りには水滴がついていて、頬が濡れたのはそのせいだということがわかる。 周防が寄越した銘柄は、缶ビールの中でも特に苦みが強いと言われているものだ。煙草でも酒でも強ければいいという嗜好の周防が選ぶなら、たしかにこれだろう。そう思えば、なんとなくおかしい。 缶を投げつけて気が済んだのか、満足そうに脇に放り投げられていたコンビニ袋に手を突っ込んで漁っている周防の姿を横目で見ながら、宗像は缶のプルタブを引き上げる。 ぷしゅ、と小気味いい音が響いて、缶の口から泡があふれ出てきた。周防のことだ、扱いが雑だったとしか思えない。 あふれた泡がこぼれないように、缶に口をつける。苦みの強い冷えたビールの喉越しは、悪くない。 いざ飲んでみたら喉が渇いていたことに気づいて、そのまま全部飲み干した。三百五十ミリリットルの缶を一気に空けると、さすがに少しだけアルコールが脳に回るような気がする。 口の中にほんのわずか、苦みが残っていた。 「……ふむ。花見酒とするには、いさかか趣が足りませんね」 「文句言うなら返せ」 「もう全部飲んでしまいましたから無理ですよ」 空っぽの缶を軽く振って、宗像は人の悪い笑みを浮かべる。周防の嫌がることをするのは、ほんの少しだけ気分が良い。 口にはしなかったものの、ざまあみろという気持ちが見事に表情に表れていることは宗像にもわかった。だが、引っ込めるつもりはない。それどころか、先ほど缶ビールを頬に押しつけられて驚かされたことへの意趣返しができた気がして、機嫌がなんとなく浮上していた。我ながらお手軽にも程があるが、これもまた一気に空けたアルコールのせいなのかもしれない。 「……へェ」 部下が見ればさっと顔を引きつらせて退散しかねない機嫌の良さで、宗像は気分良く空き缶を両手でもてあそぶ。その隣で、コンビニ袋から目的のもの――どうやら、さきいかの袋らしい――を取り出した周防がちらりと視線を流して寄越した。 |