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#Eclipse 1

消滅したサイトからサルベージしてきたROのプリアサ。
完全に女性向け(っていうか腐向け)です、ご注意ください。

たぶんえんえん続きます。

 * 1 *


 目覚め自体は、快適だった。……多分。
 眠気が残ることもなく、頭もすっきりとしている。身体に疲れが残っている、ということもない。
 ただ。

「……どこだよ、ここ?」

 ベッドから起きあがってみれば、目に映る風景がまったく見知らぬものだったというだけで。

「……うーん……」

 唸ってみても、答えはない。自分以外誰もいない部屋に、情けない声が響く。
 ……それもまた、どこか違和感をもたらすものではあったのだけれど。
 それどころではなかったので、彼は深く考えないことにした。違和感を振り払い、辺りを見回す。

「知ってる場所じゃねーよな……?」

 見る限り、ここはきちんと家具類が調えられた部屋のようだ。上質かつ上品な雰囲気でまとめられており、部屋の広さもかなりある。つい先ほどまで横になっていたベッドに敷かれているシーツも被っていた掛布も、肌触りのいいものだ。
 おそらくここは、それなりに上流階級の人物が住む邸。その一室、だろう。

「……はぁ……」

 もう一度確かめるように室内を見渡してから、彼はため息をつく。さらりと音を立てて、亜麻色の髪が頬を撫でた。

「あー、邪魔だっての」

 落ちてきた髪を乱暴に払いのけて、ベッドの上であぐらをかいた自分の姿を見下ろす。紫暗の衣、包帯のように手足へと巻かれた保護布。
 それは、見慣れたアサシンの装束。

「……オレ、なんでこんなとこにいるんだ?」

 違和感も感じるはずだ。あまりにも、この部屋にそぐわない。
 意識のない状態で寝かされていたということは、べつにこの邸へ忍び込んだというわけでもないのだろう。もし不法侵入を果たした結果だというのなら、こんな丁重な扱いを受けているはずがない。そもそも、見張りすらいない状態で放置されているのだから。
 だとしたら……。

「ここの前で行き倒れでもしたのか?」

 それなら、さすがに少しは覚えていそうなものだ。大体、その前に自分が何をしていたのかすら思い出せないとは、一体どういうことだ。

「うーん……?」

 はたして、このままここにいていいのだろうか。
 招かざる客だというわけではないはずだ。だが、どうにも居心地が悪い。
 音を立てないようにベッドを降りて、窓から外をのぞく。下へと視線をやると、少し離れたあたりに地面が見えた。
 ここは、2階の隅にある部屋のようだ。飛び降りようと思えば、不可能でもない。

「……だから、なんでそーなる」

 いきなり逃げることへと傾いている己の思考を、なんとか押し戻す。
 気を取り直して、もう一度窓の外を見渡した。広い庭の向こうに塀がそびえ、その先には賑やかな街並みが広がっている。
 見慣れているような、そうでもないような。視界が違いすぎて、すぐにここがどこだかわからない。
 窓から身を乗り出して、横の方を見る。そこに目印となるものを見つけて、彼はようやくこの街の名前を理解した。
 大きな、城。
 確かあそこには、この国の王がいるはずだ。

「……プロンテラ、か……?」

 つまりここは、城近くにある邸、ということだろうか。そうなると可能性が高いのは……

「貴族……?」
「おや、気がつきましたか」
「!?」

 突然かけられた声に思考を中断させられて、彼はびくりと肩を震わせた。
 いくら思案にふけっていたとはいえ、近づいてくる気配に気づけなかった。アサシンを名乗る以上、気配にはそれなりに敏感なはずなのに。
 全身を緊張させて振り返った先には、足音どころか扉の開く音さえ立てずに部屋へと入ってきた人物がいる。白と深い紅を基調とした、目にも鮮やかな法衣。見ただけでハイプリーストだとわかるその人は、優しげで穏やかな笑みを浮かべていた。
 長い灰色の髪を背中へと流したハイプリーストは、男の自分が見ても端正で整った顔立ちをしているとわかる。どんな人間なのかはよくわからないが、なぜか安心できるような懐かしいような、そんな感じもした。少なくとも、ひと目見て逃げ出したくなるような、そんな人物ではない。
 だが、まったく見覚えのない顔だ。
 その笑顔に、敵意は感じられない。それに、もし害意があるのならば、こんな風に見張りすらおかず自由にはしておかないだろう。
 でも、それなら。
 なぜ、自分はここにいる?

「あー……えっと」

 危険はないと判断しても、一度張りつめた緊張はそう簡単に解けやしない。どうすればいいのかわからないまま口の中で呟いた彼に向かって、ハイプリーストはにこやかに言葉を続ける。
「具合はいかがですか? 呼吸は安定していましたが、なかなか意識が戻らないので心配していたのですよ」

「い、そーなのか? オレ、なにやって……いや、その前にさ」
「はい?」
「あんた、誰?」

 ごく当たり前のことを尋ねたはずなのに。

「…………は? なんですって?」

 途端に、ハイプリーストの表情が硬くなった。
 だが機嫌を損ねたようにも、怒っているようにも見えない。それはおそらく、思いがけないことを問われた戸惑い。
 それが伝わってきて、今度は彼の方が驚いた。
 目の前のハイプリーストが、自分の言葉に動揺を見せたということは。
 自分はこのハイプリーストのことを、知っていなければならないということだ。
 ……そんな、馬鹿な。
 さほど記憶力に自信があるほうではないとはいえ、彼はアサシンだ。人の顔を覚えるのは得意な方だった。仕事で必要になることが多いからだ。
 しかも、このように目立つ人物。一度でも会ったことがあるというのなら、忘れるはずがない。

「え……いや、だってさ。オレ、あんたと会ったの初めてだろ? 大体……あ、あれ?」

 そんな相手の思いがけない反応に、慌ててもう一度記憶を掘り返そうとして、彼はぴたりと動きを止める。ふと、無造作に編まれた亜麻色の三つ編みが目に入った。
 これは、誰の髪?
 ……そう、自分の髪。
 だが、自分の髪はこんな色をしていただろうか?
 ……覚えていない。
 その違和感を突き止めるために記憶を探ろうとして、彼はふたたび凍り付いたように動かなくなった。
 そう、記憶。
 掘り返すべき、記憶。
 過去、自分がどんな人生を歩んできたのか。
 誰と出会い、誰と言葉を交わしてきたのか。
 当然あるべきそれらの記憶が──ない。

「……オレ、誰……?」

 なに、ひとつ。
 そう、自分の名前すらも。



 ただ、時が流れる。頭がぐるぐると回っている気がした。
 回るべき中身すら、あるかどうかさだかではないというのに。
 ぐらぐらする頭を強引に働かせて、考える。自分の名前すらわからないのに、ここがプロンテラだとわかったのはなぜか。自分の格好を見て、すぐにそれがアサシンの装束だとわかったのもどうしてか。
 ──個人的なこと以外は、覚えているということなのだろうか?
 ……そうなのかもしれない。自分以外の人が現れるまで、そもそも自分自身のことを改めて考えようなんて思いつきもしなかった。
 何が自分の身に起こっているのかはよくわからないが、少なくとも言葉は覚えている。ここがプロンテラであること、自分がアサシンであるらしいこと、そしてなぜか記憶をなくしていることもわかった。
 では……どうするのか。

「……大丈夫ですか?」
「あ……ああ」

 声をかけられたことに気づいたのは、肩に手を置かれてからだった。
 彼の肩に手をかけたハイプリーストは、心配そうな表情で顔を覗き込んできている。ぽつりと不穏な言葉を口にしたきり黙り込んでしまったアサシンのことを案じているのは、彼にもわかった。
 ……この人に聞けば。
 少なくとも、自分が何者かはわかるのだろうか。

「いや……悪い。オレ、自分のことも全然わかんなくってさ。あんた、オレのこと知ってんの?」
「当然でしょう。そうでなかったら、なぜ貴方がここにいるのです?」
「え……もしかしたら、あんたの家の前で行き倒れてたのかなぁ……とかさ」
「そういう事実はありませんよ。……それより」
「あ?」

 肩に置かれた手のひらに、力がこもる。
 その力にうながされるように、彼は膝から力を抜いた。そのまま身体が落ち着いた先は……柔らかいソファ。
 いつのまにか窓から離れたそんなところまで誘導されていたらしいことに、彼は今さら驚く。
 ──自分はどれだけの間このハイプリーストの存在を忘れて、思考の海へと沈んでいたのだろう。
 心地よいクッションに全身を預けたまま、顔を上げる。両肩に手を乗せたままだったハイプリーストが、彼に目線を合わせて床へと膝をついた。

「あー……えっと?」

 今ひとつ自信が持てないとはいえ、頭の中に残っている数少ない常識ではありえない状況に彼は目を瞬かせる。
 ハイプリーストがアサシンに跪くなんて、信じられない。しかも目の前にいるこの人物は、明らかにプライドが高そうだというのに。
 単に目線を合わせるため?
 つまり、目線を合わせようと思われる程には親しいということか。……本来は。

「いや、うん、それで?」

 またしてもずれそうになる意識を、彼は慌てて軌道修正する。目の前にある整った顔に向かって続きを促すと、ハイプリーストは真顔で口を開いた。

「本当に、何も覚えていないのですか? 自分の名前も職業も、何もかも?」
「アサシンだってのはわかったぜ。ホラ、この格好で」

 右手の親指で己の装束を指し示すと、ハイプリーストが軽く頷く。やはり、正しかったようだ。

「そうですか。世間一般常識は記憶として残っていると、そういうことなのですね」
「そーなんじゃねーかなぁ。ここ、プロンテラだろ?」
「はい、その通りです」
「なら、たぶん。見たことない角度からの景色だったんで、気づくのには時間かかったけどな」
「見たこと、ない……?」

 またしても、ハイプリーストの表情がかげった。
 意味もなく悪いことをしたような気になって、つい彼は辺りを見回す。……ごまかせそうなものも、はぐらかすことができそうなものも、何も見あたらない。
 そして、この部屋を知っている記憶も出てこない。

「……え? 違うのかよ……?」
「見たことはあるはずです。ここは、貴方の部屋ですから」
「……は?」

 ありえない。
 記憶などきれいさっぱりないが、これだけは断言できる。自分は、こんな上等な部屋で寝起きをするような人間ではないはずだ。
 覚えがない、ではすまない。ここまで強烈な違和感を覚えるのだから。

「いや、ちょっと待て。それはないだろ、絶対」
「なぜですか?」

 少しずつ距離を縮めつつあったハイプリーストの肩を押し戻して、彼は必死に首を左右に振る。
 ハイプリーストは気分を害した風もなく、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。

「だってここ、あんたの邸だろ?」
「はい。そうですが、それが何か?」
「あんたがこの邸の住人っつーか、主だってのは納得だよ。だけどな、オレまでここにいたってのを信じろってのは、そりゃ無茶ってもんだ。ありえねぇ」

 そもそもこの広い部屋には、生活感というものが欠如している。この部屋で目覚める前の自分がどこで何をしていた人間なのかはわからないが、ここまで生活感を消して暮らせるとはあまり思えなかった。
 ……あくまでも、想像に過ぎないわけだが。
 だが、プロンテラにある安い宿を常宿として冒険者暮らしでもしている光景のほうが、よほどしっくりくる。
 だが、自信なんてない。この感覚のほうがじつはおかしいのかと、疑いたくなる。

「なぜです?」
「なぜって……」

 なぜなら目の前のハイプリーストが、悲しそうな顔を見せたからだ。

「貴方には今、個人的な記憶がないのでしょう? それなのになぜ、そこまで頑なに否定するのですか」
「いや……だって、普通に考えてありえないしさ。あんたもそう思うだろ?」

 正直なところ、彼にもよくわからない。なぜ、そこまで素直に受け入れることができないのか、ということは。
 それが、今はなくなってしまった過去の記憶に起因するものなのか。それとも、かろうじて残っている常識から計算してはじき出したものなのか。
 ただ頭の片隅では、違う意識がまったく違うことも主張していた。目の前の人物の言うことをすべて受け入れてしまえ、と。
 ……なぜだかはわからない。もしかしたら、少しでも自分のことを知っている人にすべてを明け渡して、楽になりたいだけなのかもしれない。
 それもありえない話ではないと、彼は今さらながら他人事のように思う。
 それほど、自分のことがわからないという現状は、足元をおぼつかなくさせた。
 それに気づいているのかいないのか、表情は動いてもハイプリーストの声色が揺らぐことはない。
 あくまでも、常に穏やかで優しかった。

「いえ、そうは思いませんが……それに、私の名前はシンマです。シンマ・プラセージ、記憶には……残っていないでしょうね」
「そりゃな、自分の名前すら覚えてねぇし! あんたの名前なんか……って、プラセージ?」

 その固有名詞は、なぜか知っているような気がした。
 ということは、おそらく個人的に知っているというものではない。なにか、常識として耳にしたことがある家名なのだろう。
 プラセージの名を名乗ったのは、目の前にいるハイプリースト。関係があるとすれば、おそらく王家か大聖堂、もしくは騎士団。
 額に手を当てて、深く記憶──というよりは知識を探る。行き当たったのは、ひとつの答えだった。

「聞き覚えがありましたか?」
「たしか、大聖堂に強い影響力を持つプロンテラの名家。……だったような?」
「影響力を持っているかどうかはわかりませんが、確かに私は大聖堂に仕えるハイプリーストです。この家に生を受けたときから、プリーストとしての道を歩むことは決められていましたから」
「ふーん……」

 目の前の人物を見る限り、それも納得できる。むしろ、大聖堂に何の力も持たない下っ端だと言われたほうが信じられないような気がした。
 ただ、そうだとすると。
 ますます、自分自身との関連性がわからなくなってくるわけだが。
 それを察したのかもしれない。

「貴方のことも、教えておきましょう」

 彼を落ち着かせようとしたのか、シンマは穏やかな笑みを浮かべた。

「貴方はイェンと呼ばれていました。少なくとも、私はその名前しか知りません。アサシンである貴方が本名を名乗っていたかどうかは自信がありませんが……」
「……イェン、ねぇ……?」

 教えられても、ピンとこない。だが、そこまで違和感があるわけでもなかった。
 自分の名前だと確信が持てるわけではないが、しっくりくるような気はする。その名で呼ばれ続ければ、慣れるかもしれない。
 名前と、職業。そのふたつは、わかった。
 だからといって何か打開策が生まれるわけでもないが、シンマの言うことを信じるのならこのまま路頭に迷う心配だけはなさそうだ。いつまでもここで世話になっているわけにはいかないにしても、せめてもう少し状況が把握できるまでは置いてもらえるだろう。……何しろ、ここが自分のための部屋だと主張されるくらいなのだから。
 イェンがのんきに、そんなことを考えていたときだ。

「それに……もしかしたら驚くかもしれませんが」
「え?」

 シンマが、言葉を選ぶようにして口を開く。
 驚くかもしれないと言われて、イェンは少しだけ覚悟を決めた。どんなことを聞かされても、今さら驚いたりしないように。
 だが。

「この邸に貴方の部屋が用意されているのは当然のことなのです。貴方は、私のものですから」
「…………は?」

 それは、あまりにも想像の範疇を越えすぎていて。
 覚悟していたにもかかわらず、イェンには呆然と口を開けることしか出来なかった。
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