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#天へ続く道

消滅したサイトからサルベージしてきた、ROのセージとウィザードの話。
大人と子どもが仲良くしてるだけのほのぼのです。


天へ続く道


 木の柵で囲われた小さな浮島を登っていくと、水の上へと出る。
 連なった浮島がどうやってこの大きな島を支えているのか、それはいまだ解明されていない。空に近いようで遠い、空中に浮かぶ不思議な島。少しだけ霞んだ視界に、ゲフェン大橋が浮かび上がっていた。
 地上よりもやや強い風が吹きつけるその大きな島には望遠鏡が設置され、展望台として使えるようなつくりになっている。それなのに、ここで人を見かけることはめったにない。魔法都市ゲフェンから程近く、危険なモンスターも出ないというのに、なぜか人気のない場所だった。

「ああ……やっぱり」

 だが、そんなところにも訪問者はいる。日よけとして使われている不思議な形をした木の下にウィザードのマントを見つけて、視線をさまよわせながら浮島を登ってきたセージの青年は小さく息を吐いた。
 ポリンの跳ねる音が、風の音に紛れている。
 降り注ぐ陽光がまぶしい、平和な昼下がり。

「なにをなさっているんです?」
「さー?」

 素直な答えが返ってくるなんて、最初から期待はしていない。それでも返事があったということは、会話をする気はあるのだろう。
 退屈そうな表情を隠そうともしない、十歳以上年下である教え子の姿を見て、セージの青年───セスはそう解釈することにした。

「考えごと、というわけでもなさそうですね」
「まぁね」

 言葉を継げば、すぐに返事は戻ってくる。ここまで足を伸ばしてはみたものの、やることもなくて暇だったのだろう。
 きっと。
 今ここに来たセスは、いい暇つぶしの相手だ。

「狩りにでも行ってきたらどうですか」
「そんな気分じゃないし」
「またですか」
「だって、天気いいからね」
「イェスタ……その理屈はよくわかりませんが」
「ダンジョンにこもってるの、もったいないと思わない?」
「それはまあ、そうですけどね」
「だよね。僕が一人で出かけるとしたらやっぱりダンジョンになるし、セスと一緒でも……なんだ、やっぱりダンジョンだよ」

 だから今日はひなたぼっこの日だと宣言したセスの教え子・イェスタの表情から、退屈そうな色が消えている。
 かわりに浮かんできたのは。

「セス」
「なんでしょう」
「眠い」

 どうやら、眠気のようだった。
 風はさほど強くないし、日差しも暖かい。たしかに、今日は昼寝日和だ。
 見れば、もう半分くらい目が閉じている。

「……おやすみなさい」
「おやすみ……」

 それとほぼ同時に、セスの肩へ軽い重みがかかった。
 展望台を渡る優しい風が、二人の髪を揺らしている。風向きのままに遠く橋の方へと目を向ければ、視界の隅をふわふわとクリーミーがよぎっていった。
 その軌跡を眺めているうちに、イェスタは完全に寝入ったらしい。ほどなくして、静かな寝息が聞こえてきた。

「……さて」

 肩に寄りかかったまま眠ってしまったイェスタの顔を横目で眺めつつ、セスが呟く。

「私も寝ようかな」

 セスに見張り番は、務まりそうもなかった。



 魔法都市ゲフェンを統べる実力者がいるという話は、セスも以前から聞いたことがあった。
 決して表に出ることはないが、その人物は魔法学校やウィザードギルド、そしてゲフェンタワーに強い発言力と影響力を持つという。だが、ゲフェンの街で普通に暮らすぶんには気づくこともない。セスがそれを知ったのも、セージになってからだ。

「まー、おかげで秩序は保たれてるんだがね。とっくに引退したはずの人なんだが、あの影響力は侮れねえよ。機嫌損ねたら最後だと思っときな」

 そんなことを教えてくれたのは、たしかゲフェンを根城としている情報屋だった。まったく違うことで世話になったはずなのに、なぜそんな話になったのかは覚えていない。今はどうしているかわからないが、きっとあの調子でうまく世間を渡っているはずだ。とりあえず、セスはそう思うことにしている。
 セージのはしくれとして、セスも知的好奇心は旺盛だ。だが、世俗のことにはあまり関心がない。誰が街を支配していようが、どこの誰が人気を集めていようが、それが自分の邪魔にならなければどうでもよかった。だから、そんな話は半分以上忘れかけていたのだ。
 ゲフェンを拠点にしているとはいえ、一介の冒険者にはなんら縁のない話でもある。まさかセスが出入りするような食堂や酒場で、そんな重要人物に遭遇することもないだろう。さらにセージであるセスは、地下のダンジョンはともかくゲフェンタワー地上部に用事がない。
 それなのに、まさか名指しでその家に呼ばれることになるとは思わなかった。それも、一人息子の家庭教師、という名目で。
 どこでその人がセスの名前を知ったのかは、わからない。聞いても教えてはもらえなかったが、もしかしたら理由などなかったのかもしれない。
 なぜなら、セスにはよくわからないままに彼の教え子となったその子息……つまりイェスタは、今さら家庭教師をつける必要などまったく感じられないほど頭の良い子供だったからだ。

「セス、起きてよ」

 結局、教師ではあるものの師としての務めはほとんど果たさないまま、セスはイェスタと共に二年ほどを過ごしている。
 家庭教師というよりは世話役、もしくはお目付役と称したほうが正しいのだろう。もっとも、イェスタは大人の言うことを聞かない暴れん坊の問題児、というわけではない。十二歳でウィザードになったというだけあって頭が良く、人当たりのいい少年に見える。
 ただ、それはあくまでも外面でしかない。そのことを、セスは二年かけて学習した。
 子供でも、大人以上に頭はいい。そして名家の子息という何不自由ない環境にいながらも、わがままを言うでもなくどこか冷めている。少なくとも、箱入りではないようだった。
 セスがいちばん苦労したのは、イェスタに勉強を教えることではない。イェスタが知らないであろう、セージについての知識を伝授することでもない。

「起きてってば。もう、夕方だよ」

 おそらく、自分の存在を認めさせることだ。

「あー、もう。起きないと置いてくからね」

 少なくとも、最初の頃は寝顔など見せてくれなかった。口調も敬語だったし、呼び方も「先生」だった記憶がある。態度こそは丁寧だったが、うたた寝しているセスを起こすようなことはなかった。
 そう……うたた寝、だ。
 寝入ってしまったイェスタを眺めつつ、そういえば自分も寝ていたことをセスは思い出す。

「……おやぁ?」

 まだくっついていたがる瞼をなだめすかしてなんとか目を開ければ、展望台から見えるいつもより近い空は、たしかに朱く染まっていた。
 その朱を背景にして、イェスタが呆れ顔のまま覗き込んできている。空の色とは対照的な白い髪が風にあおられてなびくのを眺めていたセスは、少しだけ違和感を感じた。

「やっと起きた。おはよう」
「おはようございます。……夕方ですけどね」

 だが、その原因がわからない。

「昼寝して終わっちゃった」
「ははは、そうですね……え?」

 呆れを隠そうともしないイェスタに挨拶を返してから起きあがろうとして、セスはようやく違和感の正体に気づく。
 セスの肩を枕にしていたはずの少年は今、逆に自分の膝を枕として提供していた。
 どうりで、空が真上に見えるわけだ。昼寝を決め込んだときと同じ姿勢のままだったら、目の前に空が見えるわけがない。木の幹に寄りかかっていたのだから。

「……あの、もしもし? なにをやってるんです?」
「膝枕」

 飛び起きてしまうと、イェスタに直撃する。そのせいで中途半端な体勢のまま止まらざるをえなかったセスを見下ろすイェスタの表情は、じつに不思議そうだ。

「ええと……重くないですか?」

 そう口にしつつも、もう一度セスはイェスタの膝へと頭を降ろす。まるで腹筋途中の体勢で我慢比べをするような状態は、体力に自信のないセスにはいつまでも続けていられない。
 払い落とされるかとも思ったが、予想に反してイェスタは嫌がらなかった。
 子供らしくない小さな笑みを見せると、そっとセスの黒い髪を撫でる。

「まあ、重かったけどね。セスは僕の先生だし、たまには労ってあげないと」
「お言葉ですが、なにも教えてませんよ。……情けないことですが、たぶん」
「勉強教えてほしかったわけじゃないし、いいんだよ……なに、また寝るの?」
「それもいいかもしれませんが」

 このままなら、たしかにそれも悪くない。
 ただそういうわけにもいかないと再び起きあがろうとしたら、冷たい手に視界をふさがれた。

「しょうがないな。おやすみ」

 起きあがるなと、そういうことらしい。

「あの、膝枕のままですよ?」
「サービス」

 そんな、春の夕方。


 Fin.





 EXTRA


「……え?」

 声が震えていることには、きっと本人も気がついていない。
 気づいたとしたらそれはきっと、目の前にいる人物だけだ。
 そんな、微妙なゆらぎ。

「もう一度……仰っていただけますか」
「あれはもういない」

 幻聴ではない。この人がそう言うのなら、それが真実であり事実。
 本当に、もういないということだ。彼の周囲には、どこにも。

「どうした? いつかはこうなると、わかっていたことであろう」
「いえ……べつに」

 無表情よりもなによりも、笑顔がいちばん本音を隠す。そう彼に教えたのは、誰だっただろう。
 彼に人を信じることを教えた家庭教師ではない。だとすると……おそらく、今目の前にいる人物だ。
 勉強も魔法も、それだけでは済まないすべては、この人から教わった。知らなくていいことも、知りたくないことも、なにもかも。
 そして今、喪失感というものを教えられた彼にできることは、ただひとつ。

「なんでもありません」

 静かに、笑うことだけだった。


to be continue...?
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