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#虚無の淵

アニメ12話を勝手に補完した話の花村視点で、気持ち的には花鳴。
「光の道」と対になっている感じで、うちの12話の基本です。「P4A Rank3 #12」も、これを踏襲した感じになります。

コピー本『陰陽即興曲』に収録していたものと同じです。






「鳴上!!」
 声を限りに叫んでみても、反応はなかった。
 振り返れば、一カ所に集まろうとするいくつものブロックに次々と攻撃を浴びせる、仲間たちのペルソナがいる。それらを飛び越えた先、少し離れたところで自身のペルソナ・ヒミコを発動させ、ナビとサーチを続ける久慈川りせに向かって、花村陽介は大声を張り上げた。
「りせ! 本当に、ここにいるんだな!?」
「そうだよ! 悠先輩はその奥にいる。姿は見えなくても、絶対そこにいるよ!」
「わかった!」
 白い光に満ちた向こう側に、先刻目の前から消えた鳴上がいる。少なくとも、りせはそう言っている。
 陽介の足元に穿たれた大きな穴の中はまばゆい光のような、かと思えば霧のようなもので埋め尽くされていてよく見えないが、りせが断言する以上、それに間違いはないはずだ。
 だが、声すら聞こえない。姿が見えないとはいえ、すぐ近くにいるはずなのにまったく反応がないことが不安をあおる。
 久保美津雄の姿をしていたシャドウが突如姿を変えたとき、どうしてか鳴上だけが久保のシャドウの中に取り込まれた。
 誰よりも前に立っていた、そのせいだろうか。。姿が変わると同時に、久保のシャドウはなにか黒っぽいものを身体から発していた。
 他の皆は何の異常も受けなかったところをみると、もしかしたら鳴上が盾となってそれを引き受けてくれたのかもしれない。
(だからって、こんなのはナシだ……!)
 心の中で毒づいて、陽介はぎりと唇を噛みしめた。
 誰かが目の前で倒れただけでも肝が冷えるのに、こんな風に目の前から消えられてしまったら、動揺するなと言われても無理だ。
 実際、鳴上の姿がかき消えた直後は、陽介ここにいる全員がまったく冷静になれていなかった。今までなにかあればいちばん前に立ち、ときには指示を出していた人間が、突然消えてしまったのだ。そうなってしまうのも当然だと言える。なんとか状況を立て直すことができたのは、りせが動揺しながらも消えた鳴上の気配を必死で探し当てたからだ。
 鳴上は生きている、だが閉じ込められていて自力では出てこられない。それが判明してようやく、全員の目的はひとつになった。とにかく、鳴上を救出しなければならない。
 いつだって、この個性的な面子の中心にいるのは鳴上だった。どちらかといえば静かなほうで、口数も多いわけではないのに、たまに口にする一言やちょっとした仕草が妙に人を惹き付ける。なにより、陽介自身が鳴上の判断に全幅の信頼を置いていた。
 それは、鳴上が全員の中で最初にペルソナ能力を獲得したから、というだけではない。まだ出会ってからほんの数ヶ月、だがその短い間に知り得たことはそれこそ数え切れないほどある。必要以上に気負うことなく隣に立てる相棒、親友と呼べるような友人は、もしかしたら鳴上が初めてかもしれなかった。
 なにより、シャドウとなって目の前に現れるまで陽介自身が目をそらしていた負の感情、それを眼前に突きつけられたというのに、引くことも責めることもなく受け入れてくれたことが大きい。無理に装わなくても自分を受け入れてくれる人がいる、その事実は陽介の気持ちを軽くさせた。
 そうさせてくれた相手に心が傾倒していくのを止めるなど、無理な話だ。
 今までは友人に甘えたり八つ当たりするなど絶対できなかったのに、鳴上相手だと気づいたらいつの間にかできるようになっていた。それがいいことかどうかはともかくとして、それほどに心許せる相手なのは間違いない。
 だからといって、鳴上にただ頼っているだけになるのも嫌だった。相棒を名乗る以上、対等でいたい。それに、いつだって笑っていてほしい。もし危機に陥っているのなら、なにがなんでも助けたい。
 そして、隣にいてほしい。
「鳴上ぃーっ!!」
 深く息を吸い、陽介は声を張り上げた。だが、やはりなんの反応もない。
 この奥に、鳴上はいる。それは、絶対なのに。
 どうして、声が届かないのか。
「鳴上、返事しろ!」
 ぎりぎりまで身体を乗り出し、光の中に肩まで腕を突っ込んでみても、手には何も触れてはくれない。
「くっそ……」
 いっそ、この得体の知れない光の中に飛び込んでしまうべきか。否、そんな短絡的なことをすれば、鳴上を助けられなくなってしまう。
 せめて、応えてくれれば。そうすれば、引っ張り上げられるのに。
 それとも、意識がないのか。もしそうだとしたら、やはり中に飛び込むしかないのではないか。
 持って行き場のない焦燥にかられながら、陽介がせめてものあがきでなにもつかめなかった手をさまよわせたときだ。

『なにも、ない』

「…………っ!?」
 ぞわりと、全身に悪寒が走った。
 慌てて腕を引っ込めようとして、思いとどまる。この空間には、鳴上がいるはずだ。逃げるわけにはいかなかった。
 ──でも、今のは。
 空間に響いた声と、寒気しか感じなかったあの悪意のようなものは一体、なんなのか。

『すべては、無、だ』

 声は続いている。淡々としていて、憎しみも恨みもなにも感じられない。
「これ……は……?」
 問いかけてみても、当然のことながら答えは返らなかった。

『仲間なんて幻』
『きみもひとりだ』

 ぱりん、と遠くでなにかが割れる音がする。
 逃れようとする本能を押さえつけて、陽介は必死で聞こえてくる声を追った。そのうちに、気づく。
 最初は、悪意かと思った。でも、これは違う。
 悪意でもなんでもない。否、本当になにもない。
 これは、虚無と呼ぶべきものだ。

『絆なんて、ない』
『きみにはなにも、ない』

「…………ッ」
 腕から流れ込んでくる、誰のものともつかない絶望と哀しみが陽介の心を苛む。
 少し考えれば、わかった。今、こうやって聞こえてくる声は、虚無そのもの。
 そして、この空間に満ちている絶望と哀しみは──おそらくはここに捕らわれている人物のもの。
「……んなこと、あるわけねーだろ……っ!?」
 気づけば、叫んでいた。とてもじゃないが、認められない。認めるわけに、いかない。
 絆がないなんて、冗談ではなかった。たとえなにがあったとしても、陽介には鳴上との絆を手放す気などないのだ。
「つーか、俺だけじゃねーよ……!」
 みんな、そう思っているだろう。千枝も雪子も完二もりせもクマも、全員そうだ。虚無の声は幻だと言ったかもしれないが、そんなものを聞く必要なんてどこにもない。
 大体、仲間はちゃんとここにいるのだ。まぎれもなく存在している。
 なのに、幻にされてはたまらない。
「花村先輩っ! 悠先輩の様子がおかしいよ! 気配が弱まってる!」
「わかってる!」
 背後から飛んできたりせの声には、隠しきれない焦りがにじんでいた。振り返らないまま、陽介はそれに答える。
 この空間に満ちている絶望と哀しみがすべて鳴上のものであるなら、気配が弱まるのも納得だった。詳細は不明なものの、これだけの強さがある負の感情に取り囲まれれば、押し潰されても不思議はない。
 なぜ、こんなことになっているのかはわからない。陽介にも聞こえたあの声は、確かに背筋が凍ってしまいそうに底知れないものを含んでいた。底のない深淵をのぞき見てしまったような、そんな不安さを呼び起こされる気がする。今だって、ここから腕を引き抜けるものならそうしたいと感情が訴えていた。
 だが、鳴上をここまで深い絶望に落とした原因が、あの声だけだということはないはずだ。
(あいつは、仲間を大切にしてた)
 口数は多くなくても、率先して話の輪に入ってくるタイプではなくても、それはよくわかった。クマに中身ができたことを誰よりも喜んでいたし、雪子のシャドウと対峙したときには雪子に「自分を本気で思ってくれる人がいるのって、すごいことじゃないのか」とも言っていた。
 絆を誰よりも大切にしている奴が、いくら虚無そのものに囁かれたからといって、あっさりとここまで深い絶望と哀しみに捕らわれるはずもない。あの声がとどめを刺すことはあったとしても、だ。
 だとすれば──
(そこまで、こいつを……鳴上を追い詰めるようなことがあった?)
 その事実に思い当たった途端、全身が焼け付くような衝動が走り抜けた。
(冗談じゃねーよ!)
 これは、怒りだ。
 一体、なにが起こっているのか。光の中を覗けない陽介に、それはわからない。
 だが、鳴上が今ここで、しかも春から続いている連続事件の犯人に──犯人のシャドウになんらかの形で苦しめられているのは、事実だった。
(そんなの、許せねえ)
 ぎり、と拳を握る。たいして長くもない爪が手のひらに食い込んだが、痛みなど感じなかった。
 自分が見ていないところで、鳴上を苦しませるなど許せない。
 いや、見ている見ていないなど関係ない。いつだって笑っていてほしいのに、絶望させたり哀しませたりするなど、絶対に許せない。
(なにがなんでも、助け出す)
 虚無しかないようなところで、絶望に押しつぶされてほしくなどなかった。
 そこから出てこられさえすれば、ここには彼を望む人間が何人も──いや、他人なんてどうでもいい。
 誰よりも彼の存在を望んでいる自分が、花村陽介がここにいるのに。
「……悠!」
 気づけば、大声で名前を呼んでいた。
 名字ではなく、名前。心の中では何度か呼んでみたことがあったものの、そのたびに我に返っては恥ずかしさに振り払っていた、相棒の名前。
 なぜ、今このときに、その名前が口をついて出てきたのかはわからない。
 ただ、それが影響したのか、それとも違うのか。
 単なる偶然かもしれないが、まばゆい光を放っているのに暖かさどころか凍えるような冷たさしか伝えてこなかった空間が、わずかに揺らいだ気がした。
「あっ! 先輩の気配、強くなった!」
 遠くから聞こえてきたりせの声は間違いなく弾んでいて、腕を通して伝わってきた感覚が気のせいではなかったことを確信する。
 名字を呼んでも、どれだけ大きな声で叫んでも、今まで少しも反応はなかった。だとすれば、これはやっと見つけた糸口だ。
 離すわけには、いかない。
 ──絶対に。
「悠うううう! 手を伸ばせええええ!!」
 声の限りに、叫ぶ。これ以上はどう考えても伸ばせないはずの腕を、それでも必死で伸ばしてみる。
 ほんの、指先だけでもいい。この手に少しでも触れてくれたのであれば、絶対に捕まえる。
(だから、手を伸ばしてくれ……!)
 他の誰でもなく、自分に助けを求めてほしい。そうしてくれるなら必ず、助けるから。
 ──そんな陽介の願いが、伝わったのか。
「…………っ!?」
 祈るような気持ちで伸ばしていた指先に、あたたかいものが触れた。
 なぜか、はっきりと見えているわけでもないのに確信する。これは、鳴上の──悠の手だ。
 陽介の叫びを聞いた悠が伸ばしてきた、助けを求める手。
 指を探り、ためらうことなく手首をつかんだ。やっぱり見えているわけでもないのに、どうしてかそれが悠の手だとわかる。
「くうううう!」
 もう片方の手も光の中に突っ込んで、両手でしっかりと手首をつかむ。たとえ振り払われたとしても、離すつもりはなかった。
 もちろん、そんなことはされなかったけれど。
「うりゃあっ!!」
 渾身の力を込めて、引き上げる。陽介に手首をつかまれたままの状態で光の中から引っ張り上げられてきたのは、間違いなく悠だ。
(やった……!)
 助け出せた。取り戻した。
 引っ張り上げると同時にバランスを崩して、せっかく助け出した悠もろともブロックから落ちかけたが、ジライヤが抱き留めてくれたので問題はなかった。
 ホッと安堵の息を吐いてから、至近距離でつきあわせることになった悠の顔をのぞき込む。
「…………」
 先ほど伝わってきた重苦しい感情からは想像できないほど、悠の表情は落ち着いていた。顔色もべつに悪くないし、意識もしっかりあるようだ。
 だが、どこかぼんやりしているように見える。すぐ目の前にいる陽介ではなくて、どこか遠くを見つめているような、そんな眼差しだ。
「…………っ」
 思わず、手首をつかんでいた手にそのまま力を入れそうになった。なんとか、寸前で思い止まる。
(なにやってんだよ、俺)
 悠はつい先刻まで、いずことも知れない場所にたったひとりで閉じ込められていたのだ。意識がすぐに現実へと戻ってこられなくても、仕方がない。
 悠は今、ここにいる。陽介がちゃんと存在を確かめられるところに、すぐ目の前にいる。
 ──その瞳が陽介を映していないからといって、焦燥にかられる必要など、ないのだ。
「…………」
 そろそろと、悠の手首から両手を離す。
 ただ、そのまま完全に離してしまうことはどうしてもできなくて、右手を強く握り込んだ。
 ……ぴくりと、握った悠の手が反応する。
「大丈夫か?」
 声をかけるとほぼ同時に、悠の目の焦点が合った。
 ぱちりと目を瞬かせて、じっと陽介の顔を見る。まっすぐに陽介を見つめたまま、その目元にはすぐにやわらかい笑みが浮かんだ。
「ありがとう、陽介」
 握り直した手が、ぎゅっと握り返される。言葉にされなくても伝わりそうなほど雄弁に、嬉しいのだと砂色の瞳が語っていた。
 日頃は、あまり表情を動かすことのない悠だ。こんなわかりやすく嬉しそうな笑顔は、今まで陽介も見たことがない。
(よかった)
 その笑顔を目の当たりにしてようやく、本当に助け出すことができたのだという実感が湧いてくる。
 それと同時に、陽介の中には悠をこんな目に遭わせた久保美津雄のシャドウへの怒りも再燃してきた。小西先輩だけでなく、下手をすればあのまま悠まで失ってしまうところだったのだ。
 だが、ここで冷静さを失うわけにはいかない。やっと悠を取り戻せたのだ。ここからが、本番だった。
 今度こそ、このやっかいな久保のシャドウを倒さなければならない。全員の力を合わせて。
(あ……って、名前)
 そして安心すれば、今さらのように名前を呼ばれた衝撃が襲ってくる。
(え、いや待て、さっき自分でも呼んだだろ……!?)
 たかが名前だ。大体、おそらくは今陽介がいちばん仲が良いと自分で思っている友人、というか相棒にして親友は悠なわけで、そんな相手のことを名前で呼んだり呼ばれたりするなど、べつに特筆する必要もないほど普通のことなはずだった。
 そう、こんな風に、名前を呼ばれたからといって嬉しさのあまりうろたえたりする必要なんて、どこにもないはずで。
(や、今はそれどころじゃないから!)
 とりあえず、しっちゃかめっちゃになりかけていた自分の感情を慌てて意識の外に追い出したものの。
 ──なぜか己の耳が熱くなるのを、陽介はまるで他人事のように感じていた。

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