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#P4A Rank4 #14

アニメ設定の鳴上くんと花村さんで花主が成立するまでを、アニメの流れに沿って書こうとしている話の14話目です。アニメの14話時点に相当します。

微妙に長めなので、もしかしたら携帯だと最後まで読めないことがある可能性があります。
もしそうなってしまったら、お手数ですが拍手かメールフォームでご一報いただけると助かります。






「あれ、菜々子ちゃん?」
「あっ、陽介お兄ちゃん! こんにちは!」

ぱらぱらと雨が降る中、傘を手にぶらぶらと商店街を歩いていたら、前方から軽い足取りで駆けてくる菜々子ちゃんと会った。四六商店のあたりだ。
雨だっていうのに楽しそうな笑みを惜しげもなく振りまいて、その手にはピンク色の傘を持っている。ワンポイントでついてるキャラの絵は、アレだ。アニメでやってる、魔女探偵ラブリーンだ。

そういや、四六商店でラブリーンの傘売ってたよなって、なんとなく思い出した。傘にしてはやたらと値段が高くて、なんでかと思ったらおもちゃがついてるからだったっけ。ジュネスで今のところ取り扱ってないのは、高すぎて元取れそうもないからなのかって、思わずそんなこと考えたような記憶がある。

まあ、それはどうでもいいんだけどな。とりあえず、走ってたのに俺のためにわざわざ足を止めてくれた菜々子ちゃんに、俺も笑顔を向ける。
作ろうと思わなくても自然と浮かぶ笑みってのは、なんて言うんだろう。
自分でも、けっこう気持ちがいい。

「今から帰り?」
「うん! おつかい、してきたの」
「そっか、気をつけてなー。あ、お兄ちゃん、家にいる?」
「ううん、おひるからでかけてるよ? でも、今日はおそくならないっていってた!」

にこにこと、満面どころか全身で喜びを表している菜々子ちゃんの笑顔は、ほんと輝かしかった。菜々子ちゃんにこんないい笑顔をさせるのは、やっぱり「お兄ちゃん」なんだなって思うと、自然とすぐそこにある小さな頭に手が伸びる。
髪の毛がぐしゃぐしゃにならないように注意しながら髪を撫でたら、菜々子ちゃんはますます嬉しそうに笑ってくれた。

「お兄ちゃん、やっと普通に戻った?」
「うん!」
「そっか、よかった。それじゃ、気をつけてなー」
「陽介お兄ちゃんもきをつけてね! ばいばい!」
「おー、バイバイ」

ぱしゃぱしゃと軽快な水音を立てながら、菜々子ちゃんが走って行く。ピンクの傘がゆらゆらと揺れる楽しそうな後ろ姿を、つい見送った。
うん、悠がめちゃめちゃ可愛がってるの、わかる。ほんとに、菜々子ちゃんはいい子だ。これを痛感するの、もう何度目かわからないけど。

「まあ、元に戻ったならよかったよな」

この間、スイカパーティーに呼ばれたときは、もうすでに悠もけっこう落ち着いていたような気がする。というか、菜々子ちゃんの顔が明るかった。もう、悠の挙動不審な行動も落ち着いていたんだろう。

……うん、たぶん。なぜかクマの着ぐるみに入ってたり、とっかえひっかえ女の人とデートしてたり、夏祭りのときは目の下にでっかいクマ作ってたけど。
いや、たぶん、あれらの行動全部にちゃんとした理由があるんだろう。とりあえず、悠が俺には全部話してくれると言った以上、それを信じていつまでも待つつもりだった。悠のことだし、その場しのぎの嘘をついたとは思えない。そもそも、あいつにはそんな器用なことできないと思う。

「……で、いないのかー」

いや、べつに、悠の家に行こうと思って家を出てきたわけじゃない。

今日はバイトが休みで、特に用事もなかったのでクーラーの効いてる家の中で昼寝でもして過ごそうかと思ってたはずなのに、なんとなくふらっと外に出たくなった。
外は、朝から雨が降っている。なのに、なんでそんな気になったのか、俺にもさっぱりわからない。そりゃ、家の中に引きこもってるほうじゃないし、フットワークは我ながら軽いと思うけど、雨の日に理由もなく外に出ていくタイプってわけでもなかったはずだ。

で、結局は自分でもよくわからないまま商店街にたどり着いて、そこで菜々子ちゃんと遭遇したわけだけど。

「……あれ?」

まさか偶然が二度続くとは、正直なところ思わなかった。
菜々子ちゃんの背中を見送ってから向き直って、四六商店の前から愛家を経てそのまま歩いていた俺の目の端に、ちらりと見覚えのある砂色が引っかかる。それは俺が、ここしばらくの間ずっと探していたものだ。

それはいい。ずっと探していたんだから、偶然ここで遭遇できたというのは、なによりものごほうびだ。幸運だ。
……なんだけど。

「あ、陽介」
「悠……それ、一体?」

傘を持ったまま呆然と立ち尽くす俺に気づいたのか、顔を上げたと思ったらぱちりと目を瞬かせた悠が、わかりやすく相好を崩す。その前から相当慈愛に満ちた表情をしてた気もするんだけど、そうやって俺の存在に気づいて喜んでもらえるのは嬉しい……じゃなくて。嬉しいのは間違いないんだけど、そこがポイントじゃなくて。
今、注視すべきは、そうやってこっち向いて笑ってる悠の手の先だ。それも、傘を差している本来なら利き手じゃないはずの左手じゃなくて、右手のほうだ。

「え? キツネ」
「……やっぱ、キツネ?」

なんでそうなってるのかよくわからないが、悠の右手はちょっぴり目付きの悪いキツネの頭に乗せられていた。目付きはあんまりよろしくないし、なぜか顔面に迫力満点の傷までついてるものの、キツネはおとなしく悠の隣でお座りして、そのまま頭を撫でられている。なんだか、満足そうだ。まあ、気持ちはわかる。
しかも、口にはなぜか手鏡みたいなものをくわえていた。どこかで見たことあるような気もするんだけど、ピンとこない。
でも、けっこう最近見たような……? それも、しっかりと。

──いや、今はそれより、キツネだと思う。
ピンクのハート模様が描かれた赤いよだれかけなんて、やけにオシャレなモンをつけてるのはこの際どうでもいい。というか、そんなの些細なことな気がする。

「うん、キツネ」
「……えーと」

嬉しそうにこくりと頷かれて、これまた反応に困った。
いや、悠が嬉しそうなのはなによりなんだけど、なんでキツネ?

またしても、頭の中に疑問符がめいっぱい浮かぶ。さて、どういう話の持って行き方をすればちゃんと説明してもらえるのかと思いかけて、やっと気づいた。
ここ、そういや神社の前じゃないか?

「もしかして、ここの神社のキツネ?」
「たぶんそうだと思う」

聞いてみたら、あっさりと肯定された。いくらド田舎の八十稲羽だからって、仮にも街中の神社になんでキツネがいるんだよってツッコミたいのは山々だったが、それを悠に言ったところで意味はなさそうだったので必死で堪えた。一応、俺だって我慢くらいできる。
……と、思う。たぶん。

それより、ここでツッコむべきは、このどう見ても目付きのよろしくないキツネの、悠への驚愕すべき懐きっぷりなんじゃないだろうか。
フツー、ここまで懐くか? よだれかけしてるところを見ると野生のキツネってわけでもなさそうだけど、そもそもキツネって飼うモノなのかっていう。

「お前、キツネまで籠絡すんのな……」
「うん?」

うっかり呟いてしまった言葉は、当然のことながら悠には通じなかった。いやまあ、通じなくていいけど。というか、通じたらびっくりだけど。こいつ、ド天然だし。
自分の言動がどれだけ周囲に影響を及ぼすか、まったくわかってない。正確には、わかってないからこその効果なんだろうな、とも思う。
というか、逆か。こんなの、意識的にやられてたらたまらない。

「そうだ、陽介。今、時間あるか?」
「へ? え、えっ?」

慈愛(としか表現しようがない)の眼差しでキツネを見つめつつ毛並みを確かめるようにその頭を撫でている悠と、悠に撫でられてご満悦なキツネを眺めていたら、急に悠がそんなことを言い出した。
髪と同じ、色素の薄い瞳にじっと見上げられて、ちょっと挙動不審になる。日頃はそうでもないし、テレビの中に入ればそれこそ殺気すらはらんでかなり鋭い感じになる悠の瞳は、なにかを注視するとなぜか猫みたいにきれいなアーモンド型になった。

こいつの表情は、あんまり動かない。だけど、その分その感情は、この瞳にくっきりと映し出される。
それに気づいたのは出会ってからそんなに経ってない頃で、そのときは表情筋サボってんだなこいつ、くらいにしか思わなかったのに、今はそれに気づいている自分のことをとても誇らしく感じる。

結局、それだけ俺がこいつに──悠に傾倒してるってことなんだろう。まあ、こればっかりはしょうがない。
高校生男子が恋愛的な意味で好きなヤツに傾倒しないなんて無理だし、しかもこいつは俺にとって、親友で相棒で特別だ。いろんな意味で、俺の意識はこいつに集中している。
ずっと見てても飽きないってのがいちばん問題だっていう自覚はあるから、できればほっといてほしい。

「や、ヒマだけど」

頭の隅でそんなことをぐるぐる考えて、つまり主に自分自身に言い訳しながらなんとかそれだけ答えを返したら、悠がまたしても嬉しそうに相好を崩した。ずっと撫でていたキツネの頭から手を離して、立ち上がる。

悠は、俺より背が高い。経って並ばれた途端に今まで見下ろせていたつむじが視界から消え失せて、少し残念な気分になった。
そんなに身長差はないけど、やっぱり並ぶと少し視線を上げないと悠の顔がしっかりとは見られない。特に、その目が。
思った以上に素直な感情を映す色の薄い瞳が、俺はたぶん自分が思っている以上に好きなんだろう。我ながら青春すぎて恥ずかしい気がするけど、まあたぶん悠には気づかれてないから深く考えないことにした。
こんなことに感謝するのも変だが、こいつは自分に向かう好意の種類に鈍感すぎる。好意そのものはちゃんと素直に受け取って、しかもわかりやすく喜んでくれるようになっただけでも進歩なのかもしれないけど。

転校直後のこいつは、今考えるとほんとびっくりするほど静かで、人見知りで、でも目を剥くほどド天然な、誤解もフォローもできないほどに、どこから見てもただの変人だった。
いや、今でも変人だけどな。でも、ただ変人なだけじゃないことは、きっと他の誰よりも俺がよく知っている。
──と、思いたい。

「ならよかった。陽介にちゃんと話したいって、ずっと思ってたんだ」

俺がそんなことを考えてるなんて、カケラも思っちゃいないんだろう。気持ち視線を下げて俺のことを見下ろした悠が、ほっとしたように笑った。
その安心しきった笑顔に性懲りもなくときめきかけて、はっと我に返る。見とれる前に、ちゃんと言葉の意味を考えろ、俺。
もちろん、心当たりはあった。さっき菜々子ちゃんに偶然会ったときにも、脳裏をよぎったことだ。

「話って」
「前、メールくれただろ」
「え、ああ、うん」

そして、やはりそれで間違っていなかったらしい。俺が頷くと、悠は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「遅くなって悪いけど、聞いてほしいから」
「え、ちょ」

どうしよう。そんな顔をされると、こっちのほうがいてもたってもいられない。
そんな困ったような、もしかしてお前俺に遠慮してるのって思ってしまいかねないような表情を、見せてほしくない。悠にはいつだって笑っていてほしい。
本気でそう思っているらしい自分に、改めて気づかされる。かなり、今さらだけど。
だから、焦りながらもあわてて口を開いた。

「俺でいいワケ?」
「陽介にだから、聞いて欲しい」
「……そっか。俺にだから、なんだ」
「うん」

こくりと頷かれて、今度は嬉しさが心の底から湧いてくる。いやだって、そんなこと言われて喜ぶなってほうが無理だ。
幸い、本当に今日は完全にフリーだ。クマは午後からバイトで夜もたぶん二十二時すぎないと解放されないだろうし、両親も今日はどっちも夜勤当番だった。夕飯のときに食卓を一緒に囲めないことを悔しがっていたけど、それはこの際あまり関係ない。大体、クマがうちに来住むようになってから、その確率は上がった。

ちなみにたぶん親父もお袋も、クマのことを新しくできた子どもなにかとと勘違いしてるんだと思う。変なところミーハーっていうか、突発事項に強いというか、細かいことまったく気にしないっていうか。大体、息子のベッドの下からエロ本発掘してタイトル音読するような豪快大ざっぱな母親ってのは一体どうなんだ。いや、おかげで助かってるけどな。特にクマのことに関しては。
なのになんでそんな両親から、俺みたいなタイプが生まれたんだろう。今さらのこととはいえ、ちょっと不思議だ。

「じゃあ、どっか落ち着いて話せるとこに行こうぜ。立ち話で終わるってレベルじゃ、ないんだろ?」
「うん、たぶん。でも、どこがいいかな」
「んじゃ、俺んち来る? ここからだとちょっとまあ遠いけど、少なくともお前んちよりは涼しいぜ? クーラーあるし」
「行く」

軽い気持ちで誘ってみたら、悠は嬉しそうに破顔した。
口にした直後に、お前片思いしてる相手をあっさり自宅(っていうか正確には紛れもなく自分の部屋)に招くっていうか連れ込むとかなに考えてんだ、自分の理性にそんな自信あるのかってツッコミそうになったけど、悠があんまり嬉しそうだったんでそのどっちかっていえば良心とか良識とかそういうものに基づく脳内ツッコミは、心の棚の上に放り投げておくことにする。俺の心の棚は衛星軌道上にあるから、そう簡単には手が届かない。
というか、届いたら困る。

「んじゃ、移動しようぜ」
「うん」

まだ、雨は止まない。
なんでこんな雨の日に外へ出る気になったのか、その原因は自分でわかってないけど、その気まぐれのおかげでこうやって悠に会えたんだから、よしとしよう。
もしかしたら、キツネが呼んでくれたのかもしれない。神社に住んでるキツネだし、もしかしたら神様の使いとかだったりするかもしれないだろ?

いやまあ、べつに俺、この神社にそこまで本気の願掛けした覚えはないんだけどな。あ、でも、一応夏祭りのときに賽銭投げてお参りはした気がする。
たいした額投げたわけじゃないけど、それに報いてくれたんだろうか。日頃は基本的に運が地の底這ってる俺に、たまには幸運をプレゼントしてやるって。
……いやいやいや、一体なにを考えているのか。

「あれ?」

ここで悠に会えたのは本当にキツネの御利益かも、なんてバカみたいなことをちらりと考えながらふと足元に視線を向けてみて、ふたたび驚く。そこにはもう、なにもいない。
先刻まで、つんとすまし顔で(その割に、悠には満足そうに撫でられていた)そこに行儀よくお座りしていたキツネの姿は、どこにもなかった。

「キツネ、どこ行った?」
「神社に帰った」
「あ、そうなの?」

悠は、少しも驚いていない。さっきまでキツネの頭を撫でていた右手の指で、神社の奥を指差している。
つまり、キツネは悠にだけわかるように挨拶をして行ったということか。俺が、キツネと俺に降って湧いた幸運について考えを巡らせている間に。
──べつに、そんな長い時間考え込んでたわけじゃないんだけどな。

「行こう、陽介」
「お、おう」

神社を指差すために使われていた右手が、今度は俺の背中を押す。シャツ越しに触れた悠の手のひらが伝えてくる体温に、一瞬全身がぎくりと強ばりそうになった。
冷たいわけじゃない。雨が降っていても今日は雨で、しかもさっきまでその手はキツネのもふもふの毛皮を撫でていたわけで、どっちかといえばあったかい。
あったかいからこそ、よけいに意識してしまう。そんな俺自身に向かって心の中で何度も落ち着けって唱えてから、背を押されるままに足を動かした。

とはいっても背中から意識が離れるわけはなくて、でもちらりと気持ち後ろを振り返ってみれば、俺の背中をこうやって押してまで先を急ごうとしている悠の顔に浮かんでいるのはやっぱり嬉しそうな笑みだったわけで、なんかもうそれで結局は細かいことがすべてどうでもよくなってしまったかもしれない。浮かれて。

――あ、なんか唐突に思い出した。
あの、キツネがくわえていた手鏡っていうか虫眼鏡、あれ、ラブリーン傘のオマケだ。




「そりゃあ……ものすごい、怒涛だったんだな」
「うん」

一応、客を通せなくもない程度には片づいている俺の部屋で、途中で買ったジュースとスナック菓子を肴に悠の話を聞いていたら、気づけばけっこうな時間が経っていた。
それだけ悠の話が波瀾万丈だったというか、とにかく怒涛だったからだ。他にこれだっていう表現が思いつかないのが、なんか悔しい。もっとちゃんと勉強しとけばよかった。

「ていうか、大変だったんだな……お疲れ。全部片づいて、ホントよかったよ」
「今日、キツネに頼んで菜々子にラブリーンの傘渡してもらったから、あれでほんとに全部終わりだったんだ。任務完了した直後に陽介と会えるなんて、びっくりした」
「や、俺のほうがびっくりだっつの。菜々子ちゃんに会ったと思ったら、次にはお前がやけに目付き悪いキツネもふってるし」
「あいつ、すごいだろ? きっと、本当に神様の使いなんだ」
「そーかもな……」

なんか、気が遠くなってきた。傘をなくしてしょげてた菜々子ちゃんにやけにバカ高いラブリーンの傘を買ってあげようとしたものの財布の中身のさみしさに挫折してバイトを探そうとしたら、絵馬の願いを叶えてやってくれとキツネに頼まれて家庭教師のバイトを始め、バイトを探しているならと紹介で学童保育のバイトも始め、学童の子どもたちの喧嘩を仲裁したらなぜかネオフェザーマンロボを壊して弁償することになり、金を稼ぐことの大変さを痛感していたらひき逃げに遭ったお婆さんを助け、そこで顔見知りになった看護師さんのやけ酒に付き合って、学童保育で知り合った親子の悩みを聞くことになり、さらに助けたお婆さんが自棄になって川に投げ捨てた思い出の櫛を取り戻すために時価ネットで爆釣セット注文してヌシ様釣りに明け暮れ、トドメのように夏祭り当日立て続けに起こった小さな事件に巻き込まれっていうか自分から首を突っ込んで全部解決したとか、聞いただけでぐったりと疲れてくる。本気でお疲れ様だ。

ついでに夏祭りの日、こいつが目の下にもうすごいクマを作っていた原因もわかった。徹夜でヌシ様釣ってたんだな。聞いた限りでは、鮫川ゴミ掃除してたとしか思えないが。

あと、クマの着ぐるみを着たままバス停に出現したわけも、一日のうちに相手をとっかえひっかえしてデートしていたその真意も、判明した。デートどころか、朝から晩まで悩み相談室だったとしか思えない。それにしても、知り合ったばっかりで名前も知らないような相手にそこまで親身になれるって、ほんとこいつはどこまでお人好しなんだろう。

いや、気負いもなければ見返りを期待することもなくそういうことできるってとこが、こいつのいいところなんだと思う。
ただ、自分のこと後回しすぎて、見てるこっちのほうが心配になるんだが。菜々子ちゃんが心配して素行調査の真似事なんて始めたのもそれが理由だろう。
俺も、事前にこんなことになってるって知らされていたら、自分が忙しいのを棚に上げた上であれこれ手を出そうとしていたかもしれなかった。実際は無理だとしても、気が気じゃなくて仕方がなかっただろう。

そういう意味では、すべてが終わるまで内緒にしていてもらえたのは、こいつのためにも俺のためにもよかったのかもしれない。もちろん、俺たち以外の面々のためにも。
自分の都合で他の人間を、たとえどれだけ遠慮がいらない関係の相手であろうと巻き込んだりしたら、悠のことだから必要以上に気にしてしまいそうだ。

ただ、自称・悠の親友で相棒で、ついでにこいつのことが気になって気になって仕方がないくらい好きになってしまっている身としては、どうせなら巻き込んで欲しいとも切実かつ真剣に思っている。
でも、今はまだそこまで要求するのは無理だろうから。
こうやって、すべてを包み隠さず教えてくれただけで満足するべきだ。

「でも、ほんとにがんばったんだな、悠」

自分にそう言い聞かせながら、すぐそばにある悠の頭に手を飛ばす。

「うん」

さらりとした手触りの前髪に触れてから、そっと何度か撫でてみた。
悠が、気持ちよさそうに目を細める。ほんとに猫みたいだ。というか、俺がおもむろに手を伸ばしても、髪に触っても、悠は少しも驚いたりしなかった。当然のこと、みたいな雰囲気でゆったりとくつろいでいる。それが、妙に嬉しい。

「陽介なら褒めてくれるかなって、思ってた」
「なに、褒めてほしいの? そんなんでいいなら、いくらだって褒めるけど」
「大丈夫。もう満足した」

そう言った悠の顔は本当に満足そうで、でも俺がまだ満足していないので、しつこく頭を撫で続ける。本心を白状するなら、そのままこの形のいい頭を抱え込んで独占してやりたい気分でもあるんだが、それはさすがに親友兼相棒がやるような行動じゃないよなって、一応自重した。

「もっと悠と遊びたかったのにさー」

そのかわりに、口から別の本音がぽろりとこぼれ落ちる。必死に冗談めかしてはみたが、紛れもない本音だ。
一瞬、やばいかなって思いはしたけど、それは杞憂だったらしい。

「俺も、陽介と遊びたかった」

悠からも、そんな答えが返ってくる。素直に悠の心を示す砂色の瞳をちらりとのぞいてみたら言葉通りの感情を示していて、無駄にテンションが上がった。
同じことを思っていてくれてたってだけで、こんなにも嬉しくなれるものなんだな。

「んじゃ、今日から遊ぶか!」
「うん」

勢い任せの言葉も、あっさりと肯定される。もう八月二十五日で、夏休みもかなり残り少ない状態だけど、まだまだ堪能しようと思えば堪能できるはずだ。
というか、この際季節なんかどうでもいい。
俺はたぶん、いや確実に、悠と一緒に休日を朝から晩まで過ごしたいだけだ。結局はなんだかんだでお互い忙しかったこともあって、あんまり一緒に遊んでいない。

学校がある間だって、じつは朝から夕方までずっと一緒に過ごせる。もしかしたら、夏休み中よりずっとべったり一緒にいたかもしれない。
でも、やっぱり休みの日ってのは違う。学校でたまたま一緒になったんじゃなくて、悠の一日を俺だけのために使ってもらえるってことだから、よけい嬉しくなるのかもしれない。

……なんか、俺、どこの恋する乙女だって気がしてきたな。

「あ。でも、宿題全然やってない」

んでもって、悠はやっぱり俺よりは現実的なのだった。
ああ、うん、俺もそれはちょっと気になってたよ。ただ、目を背けてただけで。

「それは……三十日からってことで」
「陽介、二日で全部片づける気なのか?」
「や、悠と一緒ならできるかなーって」
「さすがに無理だろ」
「だけどさー!」

悠と遊びたいんだと力いっぱい主張すれば、しょうがないなって呆れた目を向けられる。自分でもどうしようもないなってことはわかりきっていたので、そこにはあえて異議を唱えなかった。
でも、前言撤回するつもりはない。というか、遊びたい気持ちを譲る気はない。

めいっぱい視線に力を込めて、主張する。さすがに、本気で三十日まで一緒に遊んでくれるとは思っていない。ついでに情けないことを白状するなら、一緒に宿題をしてもらえるかどうかも少々博打だ。

「じゃあ、明明後日から一緒にやろう。かわりに、明日と明後日は丸一日遊ぼうな」

でも、悠はそんな俺のかなり自分本位な希望を、かなり忠実にすくいあげてくれた。なんかもう俺、恵まれすぎてる気がしてきた。
しかも、悠の顔は嬉しそうだ。俺がうるさいから仕方がないと、その結果を導き出したわけじゃない。悠の常識が日数の調整はさせたけど、俺と一緒にいたいと思ってくれていることはしっかりと伝わってくる。俺ほど偏った感情ではないにしても、悠が俺と一緒に過ごす時間を楽しみにしてくれていることは、事実なんだとうぬぼれてよさそうだった。

「おう!」

まあ、結果的にどう考えても宿題どころじゃなくなるなって頭の冷静な部分が告げていたのは、この際きれいさっぱり無視した。

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