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#P4A Rank5 #17
アニメ設定の鳴上くんと花村さんで花主が成立するまでを、アニメの流れに沿って書こうとしている話の17話目です。アニメの17話時点に相当します。
両思いっぽいけど花→鳴です。 テレビの中ではなにが起こってもおかしくないと思ってはいたし、そもそも最初からずっと想像力の限界を越えるような現象ばっかり起きていたとはいえ、さすがにアレは本気で予想していなかった。齢十七歳にしてまさかヨボヨボの爺さん体験をすることになるなんて、一体誰が思うものか。 ちなみに、なんで爺さん体験をするハメになったかというと、直斗の影に攻撃されて老化というバッドステータスにかかったから、なワケで。 老化中は意識や記憶も外見年齢相応になるらしくて、なんというか本気で別世界を味わってしまった。被害に遭ったのが俺ひとりじゃなかったのが、せめてもの救いだ。 まあ、なんて言うんだろう。女子連中がアレをくらわなくて、本気でよかったとは思う。こう、いろんな意味で。 「大体、里中も天城もりせも、ついでに新規参入したばっかの直斗も、全員レベル低いわけじゃねーよな。つーか、天城とりせは間違いなくトップクラスだよな」 「陽介?」 「そいつらが老化のバステとかくらわなくて、マジよかったと思わねえ……?」 「……ああ。ああ、そうだな。まったくだ」 とりあえず、悠が心の底から、しかも超真剣な表情で同意してくれたので、それについては満足することにした。 「アンタら、どこまでアホなんっすか……」 まあ、完二には呆れられたけどな。 でも、そこで硬派ぶるのは直斗の老化バステ姿を目の当たりにしてからにしてほしいとは思う。強面のくせに妙なところで夢見がちかつ繊細な完二のことだから、その衝撃は凄まじいモノになるはずだ。 ちなみに俺は、現在進行形で片思いしてる相手の姿が軽く実際の年齢プラス六十歳だか七十歳だかされても、まったく動じることはなかった。逆に、こいつ爺さんになってもムダにイケメンでやがるとか、そんないろいろ末期なことを考えていたような気がする。 なにより、あのとき聞こえてきたりせの「悠センパイ、年取ってもカッコイイ……!」って夢見るような呟きにまるっと全同意していた自分がいたことは、今さら否定のしようもなかった。爺さんになってもイケメンとか、どういうことなの。さすがに記憶力は衰退してたみたいだけど、そればっかりはどうしようもないと思う。 ──悠より先に、俺が老化のバッドステータスをくらっていたからそんな印象になったんじゃないのか、というツッコミはいらない。それとこれとは別なのだ。 とりあえず、そんな大きな声で言えない事実は俺の胸の奥にしまい込んで、その日はテレビの外に出てからは特になにごとも起こることなく、解散した。すでにそれまでが十分波瀾万丈だったので、もうこれ以上は本気でお腹いっぱいだ。家帰って寝たい。 直斗は女子たちが家まで送っていったので、きっとなにごともなくたどり着けたはずだ。女子ばっかだとちょっとは不安がよぎりそうなもんだけど、こういうとき里中が同行していることでもたらされる安心感はすごい。あの強烈な足技はなんでも倒すと思う。 そんなわけで、その日はそのまま、平穏に終わった。 俺が苦悩と戦うことになったのは、その数日後──連休明けの話だ。 「そういえば……」 「ん?」 口の中に広がる竜田揚げのうま味を堪能していたら、同じく弁当を食っていた悠がなにかを思い出したのか首を傾げた。 箸をくわえたまま不思議そうに首を傾げるとか、卑怯だからやめてくれ。というか、そういう仕草をかわいい女の子がやってるのを見てときめくならともかく、なんで自分より背がでかくてガタイもいい男がやってるのを見てキュンとしてるんだ俺。ああ、うん、ツッコミ入れるならなによりもそこが最優先だったな。ちょっと、現実から目を背けてた。 というわけで、現実へ戻ることにする。なお現実でなにをしていたかというと、昼休みの屋上で悠が作ってきた弁当のご相伴に預かっているところだった。 暦の上では秋とはいえ、まだ九月下旬に入ったばかりの屋上(しかも真っ昼間)は日差しも強烈だし、なによりも暑い。 そのせいで、人影もまばらだった。特にこのあたりは、俺たち以外誰もいない。たぶん、日陰でもなんでもないせいだ。 遠慮なくギラギラと照りつける太陽の真下は、どう控え目に表現しても暑いとしか言いようがない。ただ、そこから動こうという気にはならなかった。その理由はべつに、食わせてもらってる弁当がびっくりするほど美味いから、だけじゃない。 悠がたまにこうやって手作りの弁当を持ってきて食べさせてくれるようになったのは、二学期に入ってからだ。 これが、とにかく美味い。悠が料理上手なのはもうとっくに知っていたけど、弁当なんだから冷めてるはずなのにやたらと美味くて、初めて食わせてもらったときは驚愕を通り越して感動したくらいだ。 今日の鶏の竜田揚げも、めちゃくちゃ美味い。唐揚げとか竜田揚げとか、そういうのは揚げたてを食ってこそだって頭から信じてたんだけど、上手なヤツが作れば冷めてても美味いモンなんだな。知らなかった、新たなる発見だ。 ちなみに、感動してはしゃいで美味いって大騒ぎしてたら悠にものすごく微笑ましい目で見られたのは、秘密でもなんでもない。あれは、どう見ても同い年の親友兼相棒に向ける笑みじゃなかった気がする。 なんて言うか……母の笑み? いやいや、そんなバカな。 「どしたんだよ?」 で、そんな笑みを浮かべながら弁当食ってたはずの悠が、首を傾げながらなにを突然言い出したのか、やっぱり気になるわけで。 箸をくわえたままぱちぱちとせわしなく目を瞬かせている悠の顔を、ついまじまじと見つめてしまった。視線と、あと続きを促す俺の発言に気づいたのか、宙を見つめていた悠の視線が俺へと向けられる。 ……え、いや、ちょっと待て。なんで、嬉しそうに笑ってるんだ? 「この間だけど」 「この間?」 「直斗の影と戦ったとき」 「ああ、先週末?」 テレビの中に入れられた直斗を助けに行ったのは、先週の週末だ。 助けた翌日が日曜日で、さらにその翌日が敬老の日で休みだったこともあって、思いがけずゆっくり休むことができた。日曜は丸一日なにもなかったからだらだらとほぼ半日寝て過ごしたし、月曜はバイトのシフトこそ入ってたけど夕方以降だけだったから、かなり楽なほうだったと思う。 そんでもって、その翌日が今日だ。休みが二日続いて体力的には相当楽をしたものの、つまりそれは悠の顔を二日間見られなかったということだ。なまじ、毎日顔を見てバカなことしゃべってるもんだから、たまにそういう日があると妙に落ち着かない気分になる。 夏休みなんて会わない日のほうが圧倒的に多かったっていうのに、一体どういうことだ。いろいろな事情が重なったせいで会えないのが普通だった夏休み前半の空白を取り戻すかのように、夏休み最後の数日間ずっと一緒にいたのがまずかったのか。しまった、ぜいたくに慣れすぎた。 まあ、そんな体力回復のためには恵まれていたけどちょっと落ち着かない日曜と月曜を過ごした俺にとって、今日のこの時間は降ってわいたほうびみたいなものだったわけだ。昼飯は悠と一緒に食うことが多いものの、べつに毎日弁当を食わせてもらえるわけじゃない。悠もなにかと忙しいから、日頃はどっちかといえば購買のパンとかのほうが多かった。 「いやー、あのときは焦ったよな。俺も悠も、クマまで老化しちまうし」 なにかと波瀾万丈だった週末を思い返しながら、俺と悠の間に置かれた大きめの弁当箱に箸を伸ばす。竜田揚げの横に詰められていた玉子焼きも美味い。ついでに、その手前にあったほうれんそうのごま和えも美味い。 プチトマトも入ってたりして、よく見たら彩りもなかなかあざやかだった。もしかしなくてもこれってすごいことなんじゃないか? 「クマ、キノコ生えてたな。すごかった」 とても高校生男子が作ったとは思えないご立派な弁当に改めて感心していたら、悠は悠でまったく別のことに感心していたようだ。今度は手にしたペットボトルのお茶に向かってうんうんと頷いている。 たしかに、あのキノコはびっくりした。老化っていうよりはずっと倉庫かなんかにしまい込まれてたせいで古くなりすぎて、カビが生えた着ぐるみって感じだったけど。 「まー、めったにできない経験ではあったな。したいわけじゃないけどさ」 「記憶力があてにならなくなるのが痛い。チェンジと合体ができないのは困る……テレビの中じゃないなら、いいけど」 「いやいやいや、テレビの中でしかあんな突拍子もない現象、起きねーから!」 「あ、そうか。そうだった」 「それ、超基本的なことだから忘れんな……」 「つい……ああ、言いたかったのはそれじゃなくて」 「んあ?」 そんな比較的どうでもいい、どっちかっていうとくだらない、でも話しているとちょっと幸せになれるヨタ話を続けていたら、また悠の視線が俺のほうに戻ってきた。 「陽介が老化したとき、ものすごく驚いたけど、ちょっと嬉しかったんだ」 「え。なんで?」 「何十年もの付き合いだって、言ってくれたから」 「……あー……ああ、うん」 そういえばあのとき、老化して意識がすっかりただのボケ爺さんになっていた俺は、悠に向かってだいぶとんちんかんなことを言っていた気がする。気がするだけで、正確にはあんまり覚えていない。 ただ、日頃はあんまりわかりやすく表情を動かさない悠が今、誰が見ても誤解しようのないくらい嬉しそうに笑って口にしたそのセリフは、改めて振り返ってみればたしかに言った記憶がある。あまりにも当然のことで、意識しなさすぎていて逆に忘れていた。 「や、だってそうなるだろ? あのとき何歳くらいになってたかよく覚えてねえけど、今が十七なワケで、単純に考えて……短くても五十年? あー、でも、あのボケっぷりで六十代はねえよな、七十以上だよな確実に」 考えてみれば五十年以上なんて、今まで生きてきた年数を倍にしてもまだ足りない。 悠と知り合ってからはまだ半年も経ってないけど、この短い時間で作り上げた繋がりは俺の大して長くもない人生の中でいちばん大切なものになっていた。この先なにがあっても、自分から手放す気なんてない。 万が一当の悠本人からいらないと言われても、すぐにはなくせそうもなかった。悠が俺との関係を大事にしてくれているのはわかっているから、その心配は本当に杞憂なのだと知ってはいるけど。 ただ困ったことに、俺は悠に拒絶されてもおかしくない感情を抱いてもいる。 もし、そのできれば隠し通したい感情が露見したとしても、悠がそれを理由に俺の手を振り払う可能性は低いだろう。 だけど、受け入れてもらえるとも思わない。あいつはちゃんと女の子が好きだし、お色気なんか興味ありませんって涼しげな顔をしつつもちゃんとそのテの下ネタには反応を示していた。それに完二のシャドウにもドン引いてたから、ますます可能性は低い。 俺もそうだったはずなのに、というか今だってべつに女の子だけに留まらず男も恋愛対象になったってわけじゃないのに、この気持ちは今さらごまかしようもなかった。 なぜ友情の域で留まっていてくれなかったのか、今でもよくわからない。 気がついたときには易々と友情のラインを飛び越えていたこの気持ちをなかったことにするのはもう無理で、だからといって表に出してしまうのはあまりにも怖かった。 手を振り払われる心配はしていないものの、距離が離れてしまう可能性は十分にある。物理的な距離よりも心の距離、それが今より離れるとか、考えただけで背筋が寒くなるような喪失感が襲ってきた。 だけど──悠にはなにも告げずに親友兼相棒のままでいれば、もしかしたらもう少し近づけるかもしれない。たとえ、いつか悠に恋人ができたとしても、親友のままであれば一生繋がりは途切れずにいられるだろう。それこそ、五十年後だって六十年後だって、お互いが生きていればずっと。 老化状態の俺は、そんな願望をそのまま口にしたんだと思う。もう願望を通り越して、そうじゃなかったら絶対間違いだって断言するレベルで、当然そうなってるもんだと思い込んでいた結果だ。 「あのときはそれどころじゃなくて、気のせいだって即座に訂正したけど」 「あー……そういや、悠がまともなツッコミしてるとこ初めて見たな」 「……え? いや、そんなはずは……」 「お前、普段どこからどう見ても大ボケだろ。天城と張るわ」 「天城ほど笑いのツボはおかしくない。だから、そうじゃなくて……あの後、家に帰ってから改めて思い出してさ。五十年経っても、もしかしたら陽介は今みたいに近い距離にいてくれるのかもしれないって思ったら、すごく嬉しかったんだ」 でも、その思い込みからくる発言を、悠が「嬉しかった」と思ってくれたのなら。 ……あ、どうしよう。 ちょっとどころか、かなり嬉しい。 「そ、そんなの当然だろ! 男の友情は永遠なんだよ!」 「いてっ」 嬉しくて、それ以上に照れくさくて、箸を持っていなかったほうの手ですぐ隣に座っていた悠の背中を叩いた。予想以上に力が入っていたみたいで、悠が前方につんのめる。 本当は、友情以上の感情もかなり混じっていた。今や、そっちのほうが大きくなりつつある自覚もある。でも、それはまだ言えない。 いつか言える日がくるかもしれないけど、今のところ俺にその勇気はない。 「あ、わりぃ」 「……今、本気で叩いただろ」 「え、ええええ!?」 前のめりになったまま首だけをめぐらせ、眉を寄せてじろりと睨み上げてくる視線に、少しだけあわてた。日頃はぱっちりとしたアーモンド型をしてるからあまり気にならないが、悠は目付きが据わると迫力と威圧感が半端なくなる。 本気で怒っているわけではないことはわかったので、ここはすみやかに釈明に走ったほうがよさそうだ。両腕を前に突き出して、必死に手を降って否定する。 「そ、そんなことねえよ!? ただ、その、ちょっと照れくさくて……!」 「まあ、いいけど」 「……え、いいの?」 あっさりとお許しが出て、今度は拍子抜けした。 前のめりになっていた姿勢を元に戻した悠が、ふいっと視線を逸らす。ちらりと見えた耳のあたりがほんのり赤くなっているのに気づけたのは、たぶん偶然以外の何物でもない。 おそるおそる、今度は悠の肩に手を乗せる。 ぎくしゃくと、まるで潤滑油の切れたロボットみたいなぎこちない動きで、悠がこちらを向いた。顔色には──当然、変化がない。 「陽介だし」 「お、おう。……ん?」 俺だからいいとか、それは一体どういう意味だ。ついさっき、勇気が足りなくて口にできないって思い知ったばっかりなのにそんなフェイントかますのは、よけいな期待をするだけだからやめてほしい。 そう思いかけて、はたと気づく。俺だからなにしても許されるってわけじゃなくて、単に俺がガッカリなのは知ってるから今さら追求しないとか、そっちのほうの意味なんじゃないだろうか。というか、どう考えてもそっちだろう。 「永遠なんだろ?」 首を傾げた悠が、そう繰り返す。じっと見つめられて、心臓が高鳴った。 「そ、そーだよ! お前が嫌だっつっても離してやんねえからな!」 開き直ってかなり本音に近いことを叫んでみたら、悠はまたしても嬉しそうに笑う。 「嫌だなんて、言うわけない」 その笑顔が、本当に幸せそうなものに見えたので。 「ははっ、約束だからな!」 俺は調子に乗って、今度は悠の肩に腕を回した。
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