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#愚者の言い分 1

隙間にちまちま書いて、twishortに上げていた書きかけ。
あと3回くらい続くと思います。隙間にちまちま続行なので、続きがいつになるかは不明です。

鈍感な主人公の話。たぶん花主花。




―1―


 花村陽介という奴は、約十七年というさほど長いわけでもない人生で遭遇した中で、おそらくいちばん平気で恥ずかしいことを口にする人間だ。
 たぶん、本人にその自覚はない。そりゃあもうまったくさっぱり少しも、ない。断言できる。
 もしちょっとでも自覚していたら、あいつのことだからきっともっと騒がしいことになっているはずだ。自覚してないからあんなにあっさり恥ずかしいことを口走るし、言われたこっちがあ然としててもなんでそうなってるか気づかないで頭の上にクエスチョンマークを飛ばしているんだと思う。陽介とは自他共に認める親友で相棒で、「あんたら仲いいよね」「うん、私と千枝みたい」って千枝に呆れ顔、雪子には感心したような顔で言われる俺だからこそ、胸を張ってそう主張できる。
 もともと陽介は警戒心がかなり強くて、なかなか心の内に他人を入れるようなタイプじゃない。だから誰彼かまわず言って回ってるわけじゃないけど、一度気を許して受け入れたらとことん甘いしひいき目もすごいし一途だし、好意もだだもれになる奴だ。
 今、たぶん思い込みでも誇張でもなく家族以外でいちばん陽介の身近なところにいるのは俺で、つまりはそんなだだもれのわかりやすい好意を一身に受けていることになる。それは思いの外心地よくて、これがなくなったらさぞかし喪失感を味わうだろうな、とはたびたび思っていた。べつに陽介が今後俺から離れていくだろうとかそういうのじゃなくて、とにかく一途な奴だから、今後あいつに彼女でもできたらそっちに情熱が向くのは当然だっていう至って常識的な判断だ。
 まあ、そんなこと考えるくらいなので、できればこのままこんな客観的に見ればずいぶんと暑苦しいんだろうけど、本人的にはかなり居心地のいい関係が続けばいいなあ、なんてことは漠然と思っていたわけだ。そして、そんなことをつらつらと考えたりする余裕がある以上、陽介に好かれてることなんて一度たりとも疑問に思ったことがなくて当然だ。これでじつは嫌われてましたなんてオチだったら、俺はこの先かなりの人間不信に陥る自信がある。
 とにかくそんなわけで、俺は陽介に好かれていることを疑ったことなんてなかった。「お前は俺の特別なんだ」なんてとんでもなく恥ずかしいことを、なんだそのはにかみ笑顔はってツッコミを入れたくなるような表情でだいぶ前にもう言われてたこともあって、俺の中では確定事項になっていたわけだ。
 ――だから。
「俺、お前のこと好きだ」
 どっちもバイトの予定がなかった日曜日、天気がいいから部屋にこもってるのはもったいないとばかりに鮫川河川敷にある東屋まで繰り出して、四六商店で調達してきた駄菓子いろいろをつまんでたらいきなり告げられた陽介のセリフに、俺は文字通りの意味以上を見出せなかった。
 しかも、脈絡もなかった。直前まで話してたのってたしか、今日の夕飯のことだ。今日は叔父さんがジュネスで買ってくるから晩メシ作らなくていいとか、そんなものすごく生活に密着してることだったりする。
「俺も好きだけど? というか、なんで今さら?」
 だから、普通にそう答えた。好きでもない奴と特に用事もないのに休みの日に顔付き合わせる趣味なんてどこにもないし、陽介もそんなことするほど本音の部分で人懐っこいわけじゃないのは知っている。それもあって本当に、今さらだった。意外とコインチョコ美味いとか、そっちのほうに意識が向くのも仕方ないことだと思う。
 陽介のことだからまたなにかいろいろと小難しいことを突き詰めて、改めてそんなこと思ったのかな、くらいは頭の隅っこで考えた。陽介は軽そうに見えて、そんなことまったくない真面目で一途な奴なので、たまにこっちがびっくりするようなところでつまずいたりしている。
 とりあえず、今さらではあっても好きな奴に好きと言われれば嬉しいので、素直な気持ちを口にした。
 嘘偽りない本音だ。なんで今さら? っていうのもコミで。
 陽介のことだから、自分が最初に言い出したことなんて棚の上に放り投げて、「ちょ、んなこと真顔で言うんじゃねぇって、恥ずかしいヤツ!」みたいなこと言い出すんじゃないかって思っていた。俺の表情筋は若干サボリがちなので、表情ゆるんでるつもりでも真顔になってたりするらしい。もっとわかりやすくて柔軟な表情筋が欲しい。
 でも、そんな俺の想像は外れたわけだ。
「……あー、ですよねー」
 そのとき、陽介は小さくため息をついて、ちょっとだけ苦い笑みを見せた。
「?」
「や、気にしないで。今さらだけど、確認しときたくなっただけだから」
「……うん?」
 だけどそれはほんの一瞬で、陽介の表情はすぐに見慣れたものに戻った。誰にでも向ける取り繕ったような笑顔じゃなくて、心を許した仲間にしか見せない気がゆるんだときの顔だ。
 ただ、不思議とそのとき、俺はそんな陽介に違和感を抱いた。理由はわからない。
 なんだけど、その先の陽介の態度や雰囲気に無理をしたところは見えなかったので、俺はあっさりその違和感を〝気のせい〟ということにして片づけた。そのままなんでもない雑談を繰り返して、そのうち降りかかってくるだろうテストに戦々恐々として、暗くなるからって現地解散したのだ。
 手を振って「また明日」って別れる頃にはもう、途中で感じた違和感なんてみごとに忘れていた。陽介といる時間はどんなにくだらないことしててもなにもしてなくても楽しいから、ささいなことなんてあっさり忘却の彼方にいってしまっても仕方がない。
 仕方がないけど、一応気にはなっていたらしい。なぜか突然、そのことを数日後に思い出した。
 まあ、じつはほんの数分前のことだ。そろそろ寝るかと電気を消して、布団に入って目を瞑ったと思ったらなぜかふっと脳裏に浮かんだ。いつまでも忘れてるんじゃない、と主張するかのように。
 誰が主張したのかは、知らない。
「……んー?」
 そもそも、どうして忘れたままではいけなかったのかもわからない。
 いやまあ、こんな風に突然、しかも脈絡なく思い出したってことは、なにかしら意味があるんだろう。この一年間で、そういった虫の知らせ的なものをバカにしちゃいけないっていうのを学んだばかりだ。
 なら、ちゃんと考えよう。どうせ今日はもうあと寝るだけだったんだから、問題ない。
 では、なにがいちばん引っかかっているのか、まずはそこの解明からだ。とりあえず、目を瞑ったまま記憶の表層を探る。
「……あ」
 そこで、ようやく思い出した。あのとき陽介とやったやりとりみたいなものを、他の人とも何度かやったような記憶があることに。
「あれって……たしか」
 そのときはまったくわからなかったし、そもそも気づかなかった。気づいていたらさすがにスルーはしないし、もっとまともな対応をしていたはずだ。断言はできないけど、そうだと思いたい。
 そのやりとりの本来の意図に気づいたのは、それについて陽介に相談したからだった。うん、気づいたというのは語弊がある。教えてもらった、が正しい。他でもない、陽介に。
「……あれ?」
 よくよく考えれば、おもむろに今さらなことを言い出したときの陽介の表情って、前に高台で「特別」って言われたときみたいなやけに眩しい笑顔だっただろうか。もしかして、今まで数えるほどしか見たことない真剣な顔じゃなかったか?
「……えーと」
 いやでも、陽介なら俺が今までことごとくその手のフラグを無自覚のうちに折り続けてきたことを、よく知っている。俺がフラグをばっきばきに折っていたことを指摘してくれたのは、他でもない陽介だ。たぶん俺自身よりよく知ってるだろうし、もし本当にそういう意味だったとしたら、誤解されそうな表現は徹底的に避けてくるに違いない。陽介にはそういう用意周到なところがある。
 ……いやまあ、たしかに誤解も曲解もしようもないくらいにストレートだったけど。ストレートすぎて気づかなかったというか、前提を疑わなすぎてそのまま受け止めてしまった。陽介が「ですよねー」ってため息をついたのは、だからか。
 ――と、いうわけで。
「……えええ?」
 もしかして、あれって普通は異性間で発生する、いわゆる恋愛的な意味の〝好き〟だったんじゃないかって気づいたのは、たしか陽介にそう言われて三日くらい経ってからだった。


(続く)
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