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#秋色ブレイクタイム

花→←主(しかも無自覚)の域を脱していない、高2・11月下旬の相棒コンビ。
ほんのりとこれの後日談ですが、これだけでも話は通じます。
さらっと11月のネタバレを含んでいますのでご注意ください。

2014年冬コミで配布した無配の中身そのままです。




「第一希望は里むすめ。鳴門金時の中でも特に美味いヤツなんだよな……それがなかったら、紅あずまかな。どっちもほくほくで甘くなる。ああ、おもしろいから安寧芋でもいいぞ。あれは超ねっとり系」
 午後の授業が終わるなり勢いよく後ろを向いて、めちゃくちゃ真剣な顔で俺にそんな教示をくれたのは、言うまでもなく俺の相棒だ。
 ぶっちゃけ、言われた内容がさっぱり理解できない。たぶん、言った張本人も俺が理解できているとは思っていないだろうから、まあ問題はないんだろうけど。
「えーと、里むすめと紅あずまと安寧芋? その三つの中だったらどれでもいい?」
「だから、第一希望は里むすめ。もしくは鳴門金時」
「メモっとくわ……」
 大して中身が入ってない通学カバンの中からさっき中に放り込んだばっかりのペンケースを取り出して、目に付いた適当なノートのページをこれまた適当に破る。
 ノートの切れ端にサツマイモの種類らしき名前を順番にメモして、「里むすめ(鳴門金時)」って文字に丸をつけておいた。とりあえず、これが最優先、と。
 ……やっぱり、違いがわからない。
「つーか、サツマイモってこんな風にいろいろ種類あったんだな。知らんかったわ」
「もっとたくさんあるぞ。俺もそこまで詳しく知ってるわけじゃないけどな」
「や、こんだけ知ってれば十分なんじゃね……?」
 少なくとも、俺は知らなかった。野菜コーナーの品出しとかも年中やってるんだから、知っててもおかしくないはずなんだけど、見事に真っ白だ。
 大して興味ないから、意識にも記憶にも残ってないってやつか。ああうん、納得。
 でも、今度からはちゃんと、見かけたら覚えていられる気がする。なんとなく。
「で? 他にいるもんねぇの?」
 メモついでに、なにかお使いがあるかどうかも相棒に聞いてみる。どうせサツマイモ買いにジュネスまで行くんだから、ものはついでだ。
 そしたら、相棒は砂色の目をぱちりと瞬かせた。ちょっとだけ首を傾げて、なにかを考え込んでいる。
「んー、特には……ああ、なにか陽介が食べたいものあったら買ってこい」
 かと思ったら次の瞬間そう言い切った相棒は、なんていうか「いいこと思いついた!」とでも言いたげで、なにがどうすればそれがそんなに楽しく感じられるのかやっぱり不明だったけど、まあ相棒が楽しいならそれでいいかなって思ってしまう程度には生き生きしていたので、まあよしとすることにした。
 たぶん、そんなこと考えてる俺自身の頭の中が、いちばん意味わからない。



 今さら説明するまでもない気はするけど、焼き芋食べたいって言いだしたのは相棒だ。
 それも、かなり唐突だった気がする。三時間目の英語の授業が終わって、まだ昼休みまで一時間もありやがるってうんざりしてたら、突然真顔の相棒が振り向いて主張したわけだ。焼き芋食べたいって。
 ただまあ、さすがに焼き芋なんてそのとき持ってなかったし、食いたいって言われてもどうしよう、ジュネスで焼き芋売ってたっけ? とか首をひねってたら、続けてこうも言われたわけだ。今日、家に帰ったら焼き芋作るから食いに来いって。
 まあ、そんなお誘いされちまったら、そりゃホイホイ乗るわけだ。幸い今日はバイトも休みの日だし、断る理由なんてひとつもない。そもそも俺の中に、相棒からの誘いを断るっていう選択肢は存在してなかった。いつ頃からなくなったのかすでに覚えてないけど、ないものはないんだからしょうがない。
 で、そんなら作ってもらうかわりにサツマイモはジュネスで俺が買っていくわって言ったら、さっきのサツマイモ銘柄指定が飛んできたわけだ。金は払うから、ちゃんとレシートもらってこいって厳命もされた。サツマイモ代くらいこっそり払うつもりでいたのが、言ってもないのにバレた感じだ。なんていうか、あなどれない。
「……うーん、鳴門金時って書いてあるからコレでいいんだよな……?」
 ちなみに、サツマイモの違いは現物を見ればわかるかもなんて思っていたけど、さっぱりだった。どれもこれも、同じサツマイモに見える。
 相棒曰く「食えば違いがわかる」らしいけど、さすがに店頭でサツマイモかじるわけにはいかないし。それ、実行したらツッコミどころ一箇所じゃおさまんないレベルで問題あるし。
 とりあえず商品札に書いてあるんだから、間違いはないはずだ。そう自分に言い聞かせてから鳴門金時を数本手に取って、しばしの間悩む。
「……つか、バカ高いもんでもないし、種類混ぜて買っていってもいいんじゃね?」
 焼き芋食べ比べとか、たまにはそんなアホなことをやってみるのもいいんじゃないだろうか。今日の夕飯は焼き芋フルコース、みたいな。
 や、作り方わかんないけど。そのへん、見事なまでに相棒に丸投げだけど。
 丸投げしても許してくれる部分は、積極的に投げていこうと思っている。もちろん、投げっぱなしにするつもりはないけど。かわりにあいつから投げられたものは、全身全霊で受け止めるつもりだ。
 ……ええと、心意気だけは。
「んじゃ、コレとコレとコレと」
 勝手に納得して、目に付いたサツマイモを適当にカゴへ放り込んでいく。ついでに、特売セールやってたジャガイモも一袋入れておいた。俺が食べたいだけだ。
 あと、スライスチーズとかスナック菓子とか、どう考えてもイモじゃないものも追加する。ちょっと考えて、ほっといてもすぐには傷まないような野菜も増やした。大根とかニンジンとか。カレーとクリームシチューのルーと、缶詰のデミグラスソースも、安売りしてたから入れてもいいような気がする。
 んでもって、そこまで揃えると、なんかこう足りない気がしてくるわけで。
「米はたぶんあるだろ? 肉と魚どーすっかな」
 この間のままだとすれば、あいつんちの冷蔵庫にはほとんどなにも入っていないはずだ。
 まだ、しばらくは自分で料理をするような気分にはならないかもしれない。でも、もしかしたら明日にでも気が向くかもしれない。
 あいつの気が向いたときに、いつでも気が向いたまま料理できればいい。そう思ってしまうとやっぱり、あいつの家の冷蔵庫の中身はちゃんと詰めておきたかった。
 だって、よし料理作ろうと思って冷蔵庫開けたら中空っぽとか、出鼻くじかれるどころじゃないだろ。そこでやっぱりやーめた、になるのは俺だけかもしれないけど、
「ま、いーや。冷凍しとけばすぐにはおかしくなったりしねーだろ」
 肉は腐りかけがいちばん美味い、そんなどこかで聞いた気がする豆知識を脳内でひっくり返しながら、すぐに使わなくても冷凍して保存しておけそうな豚肉のパックも買い物カゴに突っ込んでおく。冷凍するにしたって、たしか鶏肉は傷みやすいって聞いたし。
「こんなもんか?」
 気づけば、買い物カゴの中はすごい量になっていた。
 なにやってんだ俺ってちょっとおかしくなったけど、ひとりで持てない量でもないし、まあいいか。この上ない自己満足の結果なのは、わかっている。
 今日、焼き芋食いたいって言い出したのは相棒だ。
 数日前まで飯食うことも忘れてて、それになんの疑問も抱いていなかったようなヤツが自分からそんな主張をしたっていう事実が、まず嬉しい。やっと、あの日以来ズレていたあいつの中の歯車が元に戻ったんだって実感できて、つい泣きそうになった。いや、泣いてないけど。
 しかもそれをごく自然に、いかにも当然だって言いたげに俺に向かって要求してきたことが、それ以上に嬉しい。
「あとは菜々子ちゃんの体調が安定して、堂島さんが動けるようになれば……や、大丈夫だよな」
 まだ、すべてが解決したわけじゃない。謎は山のように残ったままだし、菜々子ちゃんは絶対安静だ。
 それでも、ちゃんと菜々子ちゃんの意識は戻った。見舞いにも行けるようになった。
 たとえ少しずつでも、いつかきっとすべてがいい方へと流れていく。だから、大丈夫。
 そう、思えた。



「すごい量だな……?」
 俺が持ち込んだ荷物をひと目見た相棒は、開口一番そう言った。日頃は切れ長な風情になっている砂色の目が見開かれて、ぱっちりとしたアーモンド型になっている。
 ぱちぱちと不思議そうに何度も瞬きしながら、がさがさ音を立ててレジ袋の中を検分していた。肝心のサツマイモはたしか、かなり下のほうに入れた気がする。
「これ、今日全部一気に食うのはさすがに無理だぞ」
「……その発想はなかったな……」
 まあ、まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったわけだが。どこからどう見たって、この山はふたりで食うには多すぎる量だ。
 そんなに買ってくる俺もどうなんだって思うけど、それは今は遠くの棚に放り投げておく。とりあえず、量はすごいけど出費額はそんな大したことない。いや、マジで。
「あれ?」
 とりあえず、相棒にとっては俺の呟きっていうかぼやきのほうが意外だったようだ。本気で、不思議そうな顔して首を傾げている。
「いやいやいや、いくらなんでも、一日でコレ全部は食わねえよ。てか無理だろ、胃袋的な意味で。余ったらとっとけよ、なるべく日持ちしそうなの選んできてっから」
 こいつ、元から天然だったけどここまでボケてたっけ、もしかしてまだ本調子じゃないのか、なんてちょっと心配になったけど、一応それは顔には出さなかった。単なる杞憂だってわかってたし、こいつのことだからなんか他に考えてたことがあるんだろうなって予測はついたからだ。
 どんなこと考えてたのかは、正直なところわからない。ちゃんと常識を知ってるくせに、俺相手だと遠慮がいらないからなのか無視して闊歩することも多いあたり、なんていうか空気を読むことを忘れない自由人だと思う。
「え、でも、せっかく陽介が買ってきてくれたんだし、陽介と一緒に全部食べたい」
 そんなこと考えてたら、さらっと爆弾落とされた。
 あ、なるほど、そうなるわけか。そりゃ、全部食うって発想にもなるだろう。うん、納得。
 冷静なフリして、自分にそう言い聞かせる。もちろん、フリなだけだ。あんな爆弾の直撃を受けて、本気で冷静になんてなれるわけがない。
 でも、そんな爆弾を放り投げた本人がまったくそのへん意図してなさそうなので、必死で平常心を保とうとした。一応、その努力は報われたと思う。
「……んなもん、また明日も来りゃいいだけの話だろ。明後日だって、明明後日だってあるわけだし」
「あ、そっか」
 なんてことない、至って普通かつ当然のことだって態で主張してみたら、相棒はあっさり納得した。少しはツッコミ入れろよって言いたくなる勢いで、だ。
 というか、マジで明日も明後日も明明後日も来てもいいのか。実際に口に出す気はさすがにないものの、つい聞いてみたくなる。いやまあ、聞いてみたところでダメだとは言われない気がするし、逆に本気で不思議そうな顔で「なんで?」って聞き返される予感しかしないけど。
 ──今、この家には相棒しかいない。
 昼も夜も、ひとりだ。菜々子ちゃんも堂島さんも、まだしばらく退院できそうにはない。菜々子ちゃんの見舞いに行けるようになっただけ進歩ではあるけど、この家に日常が戻ってくるのはたぶん、まだ先の話だろう。
 だから、なのかもしれない。
 連日どころか、毎日押しかけると言っているのにも等しいことを宣言しているのに、納得するだけじゃなくて微妙に嬉しそうな顔までしているのは。
 でも、気持ちはわかる。この家にこいつしかいないっていう状態は、俺ですら微妙な違和感に苛まれた。
 毎日この家に帰ってくる相棒にしてみれば、その違和感はもっと顕著なものだろう。誰でもいいから、自分以外の他の人にいて欲しくなるんじゃないだろうか。
 そう、誰でもいいはずなのに、俺にこいつのほうから声をかけてくれたことが──俺を選んでくれたことがどうしようもなく嬉しいし誇らしく感じてしまうことは、もうあきらめた。聖人君子になんてなれないし、俺はこいつと対等でいたいんだから、頼られて嬉しいのは当然だ。
 だからこそ、早く元の相棒に戻って欲しい。俺に出来ることなら、それこそなんでもするから。
 ……や、出来ることがあれば、だけど。出来ること、なにひとつないとは思いたくないけど。
 よく考えたら、こうやって相棒んちに遊びに来るのは俺が楽しいだけなので、こいつのためになにかしたっていう気にはまったくならないわけだ。まあ、俺が勝手に楽しんでることが少しでも相棒のためになるなら、それに越したことはないのかもしれないが。
「鳴門金時も紅あずまも安納芋も、全部買ってきたのか。全部そろってるジュネスがなんていうか表彰モノだな……ところで陽介、レシートは?」
「え?」
 心持ちうきうきと、気のせいかもしれないけど頭の上に花を飛ばしながらレジ袋の中身を引っ張り出しては整理してた相棒が、くるりと振り向いた。
 その手には、いくつものサツマイモが握られている。とりあえず、お気には召したらしい。なんとか合格か。
 んで、レシートだっけ。えーと。
「あ、うん、捨てたかも?」
 捨てたかも、というのはぶっちゃけると正しくない。間違いなく、ジュネスのゴミ箱に捨ててきた。
 自分で払うつもりだったから、あんだけよけいなものもいろいろ買ってきたわけだ。ここでおめおめとレシートなんて、出せるわけがない。こう、男として。
 これに関しては、意味のわからないプライドと言われても甘んじて受ける。たかられるのは嬉しくないし反発もするけど、自分で出すと決めたときは出すし、それに関して譲る気はない。
 たとえ、相手が相棒でも、だ。
「ちゃんとレシート持ってこいって言ったよな?」
「や、サツマイモ以外のモンのが多いし?」
「そういう問題でもないだろ」
「俺の食いたいモノばっかだし!」
 嘘ついてるわけじゃないから、自信を持って心からそう言い切れた。
 ちょっとジト目になってた相棒の表情が、少しずつ呆れをにじませたものに移り変わっていく。これに関しては前言撤回しませんという主張を込めてじっとその顔を見つめていたら、そのうち完全に「しょうがないな」って言いたげな笑みになった。
 うん、勝った。粘り勝ちって、おそらくこういうことを言うんだろう。きっと。
 納得されたっていうよりは譲歩された、許されたっていう感じではあるけど、これでいい。今日は、俺の自己満足につきあってもらいたい。
 やれやれって様子を隠そうともしないまま、完全に作業台と化している食卓の上に買ってきたサツマイモ各種を並べた相棒が、どこからか取り出してきたアルミホイルを手に取った。
「責任もって、ちゃんと残り食いに来いよ」
「おう、望むところだ。任せろ」
「ん、ならよし」
 なにがいいのかは、正直なところわからない。でも、とりあえず納得してくれたということでよしとする。
 とりあえず今、俺がいちばん気になっているのは、相棒がおもむろに広げようとしているアルミホイルだ。これ、なにに使うんだ?
「つーか、焼き芋ってどーやって作んの? 庭でたき火でもすんのか?」
「それも悪くないけど、落ち葉集めるの手間だし、コツつかまないと上手に焼けないみたいだから、今日はお手軽に土鍋でやる」
「土鍋で焼き芋……?」
「洗ったサツマイモをホイルで包んで、土鍋に入れてフタして、とろ火で焼くだけ」
「超簡単!?」
「一時間半くらいかかるけどな」
 適当な大きさに切ったアルミホイルでてきぱきと水洗いしたサツマイモを包んでいく手際は、なんていうかいつものことながら見事だった。
 手伝おうかなって一瞬思ったものの、たぶん手慣れてない俺が手を出すよりは相棒に任せておいたほうがいいっぽいので、そのままじっと観察する。あっという間にいっぱいあったサツマイモは全部アルミホイルで包まれ、これまたきれいに食卓の上へと並べられた。
「一度に全部は無理だな、これ」
「三本が限界じゃね……?」
 こいつんちにあるのは、けっこうでかい土鍋だ。でも、さすがにサツマイモ一本を丸ごと土鍋に入れようとした場合、そう何本もは入りそうになかった。
 上手に焼くためには、サツマイモを土鍋の中で重ねたりしたらいけないらしい。まあ、言われてみれば理屈はなんとなくわかる。熱伝導うんぬんにムラができるってヤツなんじゃないだろうか。どっちかっていうと文系だけど、一応それくらいは想像つかなくもない。
「とりあえず、これで焼いてみるか」
「おー」
 最初に相棒が土鍋の中に入れたのは、紅あずまって名前のサツマイモだった。
 鳴門金時の味がいちばん好きだから、最後に食べることにしたらしい。というわけで、次は安納芋だ。
「なんかワクワクすんな」
「だろ?」
 フタをした土鍋の中が気になって仕方がない俺を横目に、相棒はやかんでお湯を沸かし始めた。あったかいお茶を淹れるんだそうだ。たしかに、サツマイモ食うんなら緑茶欲しいよな。コーヒーとか紅茶じゃないよな。
 ちなみに焼き芋を美味しく焼くには、途中で何度かサツマイモを回したほうがいいらしい。せっかくなので、後で俺もやらせてもらおうと企んでいる。
「焼き芋焼けるまで、おやつ食っとくか。陽介が買ってきてくれたのがいっぱいあるし」
「おう。食い過ぎんなよ」
「愛家のスペシャル肉丼完食できる俺にそれを言うのか」
「……そーいやそーだった」
「俺とクマを一緒にするな」
「してねーよ」
 相棒が淹れてくれたお茶と、俺が買ってきた菓子もろもろをちゃぶ台の上に並べて、だらだらとどうでもいいことをしゃべりながら焼き芋が焼けるのを待つことにした。
 なんてことのない、秋の放課後だ。春から続いていた事件の犯人もようやく捕まえて、菜々子ちゃんの意識もなんとか戻って、やっと訪れた日常だ。
「明日はなに作るかなー」
「今から明日のメニュー考えんの?」
「だって、明日も陽介、飯食いにきてくれるんだろ?」
「や、来るけどさ」
「なに食べたい?」
「んー、相棒が作るメシ、なんでも美味いからな……」
 さっき自分がジュネスで買ってきた食材その他を脳内に広げながら、食べたいものを考える。
 こいつが作ったものならなんでもいい、っていうのが正直な希望ではあるけれど、作るほうからすればそれはいちばん面倒な希望でもあるらしい。だとすれば、やはり具体的な名称を挙げなければ。
 母親に聞かれたらたぶん面倒くさがるだろうに、こいつ相手だと思うと面倒さは感じなかった。それどころか、なんだか楽しくなってくる。
 どうしてかは、わからないけれど。
「豚のショウガ焼き……?」
「お前、それホントに好きだな……」
「好きなんだからしょうがねーだろ! お前の豚のショウガ焼き、わかんねーけどメッチャ美味いんだよ!」
「そうかそうか。じゃあ、ポテトサラダもつけてやろう」
「マジ? やりぃ!」
 とりあえず、明日の夕飯が今からとても楽しみだ。
 まだ、二十四時間以上先の話ではあるけれど。



 ──結局、俺が帰途についたのは、夜の十時を過ぎていたわけだが。
 ふたりで土鍋三杯分の焼き芋を食い尽くす頃には、すっかり元通りの相棒に戻ってた。今日いちばん嬉しかったことは、たぶんそれだ。
 でも、明日も明後日も、可能なら明明後日も、俺はこいつの家に足を運ぼうと思う。相棒本人が来なくていいって言ったとしても、俺が来たいから来る。
 でも、たぶん相棒は来ないでいいとか言わないだろう。きっといつでも、俺のことを笑って迎えてくれる。
 人間、いつでも笑っていられるわけじゃないことは、よく知っている。ずっと、表面だけでも笑っていようとし続けてきた俺だから、それは身に染みている。
 泣きたいときは、泣けばいい。俺はそれを、相棒に教えてもらった。ムカついたときは怒ってもいいのだと、必要以上に自分を抑える必要はないのだと。
 俺自身はなにを言われても、べつに構わない。そんなものはスルーできる。気にしないのはやっぱ無理だけど、本当の俺を見て受け入れてくれる人が──相棒がいるから、そんなものはどうでもいい。
 だけど、俺の大切な人たちを悪く言われたり傷つけられたりしたら、どうしても我慢ができないから。それと同じように、こいつだってどうしても強いままでいられないときだってある。そのときには、力になりたい。助けられることがあるなら、助けたい。こいつが俺にそうしてくれたように、くれたものを少しは返したい。そう、思う。
 それに、やっぱり相棒にはいつだって毎日を楽しんでいて欲しかった。真面目ゆえの斜め上の発想で、日々新たな発見をしていてもらいたい。だって、そうしてるこいつは他のどんなときよりも輝いているから。
「んじゃ、ごちそーさん。また明日な」
「うん、学校で」
 玄関先まで見送ってくれた相棒に手を振って、夜の八十稲羽の町を歩き出す。
 霧に隠れて月が見えないのが、ちょっと残念だった。
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