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#不要な衣装の使い方

たぶんくっついてすぐの花主がハロウィンを迎えた話。イベントや仕様的にP4G準拠になっています。
主人公は名無し。
リクエストをいただいて書いたものです。




「え、なにそのカッコ」
 挨拶よりもなによりも先に、口からついて出た言葉はそれだった。
「ん?」
 疑問を叩きつけられた当人は、なにがおかしいのかさっぱりわかっていないような素振りだ。不思議そうに首を傾げながら、ぱちりと砂色の目を瞬かせた。
「おかしいか? 丈合ってないとか?」
「や、それはないけど」
 状況を無視すれば、その格好はべつにおかしいところはない。むしろ、よく似合っていた。それはもう、この上ないほどに。
「つーか、それ用意したのもともと俺だし。お前のサイズ間違うわけねえだろ」
「それもそうか」
 口にしてから気づいたとんでもない主張に、目の前の人物は気づいているのかいないのか。焦ることも照れることもなくあっさりと受け止められて、花村陽介は逆に穴が入ったら入りたい気分に陥った。臆面のない相手に恥入ってみたところで、時間のムダである。
 とりあえず、特に指摘もされなかったのだからそこはスルーでいいだろう。いい年した高校生男子が、いくら親友で相棒で時には抱きしめあってキスを交わす仲とはいえ身につけている服のサイズどころか帽子のサイズまで全身くまなく把握している(しかも本人に聞いたことはない)というのはドン引き案件だと思うわけだが、そんな執着を向けられている本人がまったく気にしていないのだから問題はない。たぶん、きっと。
「つか、そうじゃなくて。なんでハロウィンのコスプレしてんの?」
 改めて素朴な疑問を口にすると、またしても砂色の目がぱちりと瞬く。え、そこなんだ? と言いたげだ。意味がわからない。
 今、目の前にいる花村の相棒が着込んでいるのは、どういうわけか昼間に用意した吸血鬼の仮装用衣装だった。
 ジュネスで行うイベントのために着てもらったわけだが、諸般の事情で目的を果たせたとは言い難い。とはいえ、せっかく用意したし、なによりも相棒に大変似合っていたので、全員分の衣装をそのまま丸ごとプレゼントしたのだ。たぶん、そのうち面白がってテレビの中でみんなに着せるのだろう、と半ば覚悟を決めながら。
 なのに、なぜ今ここで、よりによって夜の稲羽中央通り商店街のど真ん中で着ているのか。
 この時間、商店街をほっつき歩いているような人間はたしかに少ない。奇異の目で見られる可能性は低いだろうが、少なくとも花村はこうやって遭遇してしまった。否、正確にはおそらくこの時間にここへ来れば相棒に会えるだろう、という期待のもとに足を運んだわけだが。
「いいこと教えてやる。陽介、驚くなよ」
「無理、すでに驚いてるから」
 ぱっと機嫌よさげに顔を輝かせた吸血鬼コスプレ中の相棒に、花村は正直なことこの上ない反応を返す。
 だが、相手はまったく気にしなかった。それどころか、ますます機嫌がよくなったようにも見える。
 シルクハットをかぶった頭の上に花でも飛んでいる光景が見えるような錯覚に陥りながら、とりあえず花村は先を促してみることにした。とりあえず、わくわくとなにかを言いたい素振りなのは伝わってきたからだ。
 ──なのだが。
「……で?」
「じつは、本当に吸血鬼なんだ」
「へ?」
 これまた、予想の斜め上からまったく想定外のセリフが降ってきてしまった。
(えっ、これどう解釈すればいいの?)
 冗談なのは間違いない。間違いないはずだ。こいつが吸血鬼だなんてそんな話は一度も聞いたことがないし、そもそもこいつは毎日のように平気で太陽の下を歩いている。愛家でニンニクの入った料理も豪快に食しているし、十字架を忌避している様子だって見たことがない。
 とはいえ、本物の吸血鬼はそんなもの苦手とはしないのだと言われてしまえば反論はできなかった。なにしろ花村には吸血鬼の知り合いがいないので、事の真偽を確認しようもない。
(つーか、あれ?)
 よくよく考えてみれば、こいつが吸血鬼だったとしてなにか問題はあっただろうか?
 ……特にない。
 さすがに失血死するレベルで血を吸われたら困るが、それだけだ。もし血が欲しいと言われたら可能な量であれば献血気分で提供する図しか見えなかったし、自分からは吸わないのに他の人間からは血を吸っているなんて聞いたら逆に嫉妬でどうかなってしまいそうだった。
 それに吸血鬼がいわゆる噂通りに不死の存在なら、花村を置いて逝ってしまうこともない。それは、なんだかとても満たされることのように思えてしまう。
 つまり、相棒が今まで通り花村のすぐ隣にいてくれるのなら、本当になにひとつ問題などないのだ。それはもう、見事に。
 あるとすれば、花村のほうにだろう。置いて逝くのは満たされることだが、自分がいない世界にこの男をいつまでもひとり残しておくのも業腹だ。
 花村は、独占欲が強い人間だった。
「おーい、陽介?」
「あ」
 真剣に考え込んでしまった花村の目の前で、ひらひらと手が振られている。はっと我に返って、花村はぱちぱちと目を瞬かせている相棒の顔をのぞき込んだ。
 吸血鬼でも、べつにいい。こいつがこいつなら、それだけでいい。
 ──でも、本当に冗談なのだろうか?
 どう考えても冗談だとは思うのだが。
「……冗談、だよな?」
 もし本当だとしたら、彼と同じ存在になるためにはどうすればいいのか聞き出さなければならない。
 冗談だとしたら、相棒として彼が望んでいるだろうツッコミを入れてやらなければならない。
 そんな、花村の脳内を知ってか知らずか。
「もちろん」
 ニヤリ、と相棒が笑う。
 手が伸びてきて、そっと花村の首筋に触れた。頸動脈のあたりを、するりと何度か撫でていく。
 続いて、いつの間にか近づいていた唇がそこに触れる。舐められる濡れた感触に、ぴくりと身体が揺れた。
 腕を伸ばして、首筋に顔を埋める身体を抱き締める。吸血鬼の衣装に包まれたそれは、あたたかい。
 秋の夜の寒さを、忘れさせるほどに。
「冗談に決まってるだろ」
 噛みつかれた牙は痛くもなんともない、やわらかいシリコン製だった。
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