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#そして、遠い夏の日

館林様聖誕祭に必死で間に合わせた館京。
正確なこと言えば、投稿したときにはすでに誕生日過ぎてましたw
……という半年くらい前の遺産のサルベージ。

大正メビウスラインは初書きです。ついに手を出してしまった。
館京のはずなんですが、圧倒的に他キャラの出番が多目です。
さらに現代ネタです(東メビネタではありません)。
ついでに超絶ネタバレです。備忘録をコンプリされていない方向きではありません。




「こんにちは」

平成の真夏は、蒸し暑い。
そんな纏いつくような不快感すら一瞬忘れさせる、鈴を転がしたような澄んだ綺麗な声だった。
少年のような少女のような性別を感じさせない透き通った声音に、柊京一郎はほんのわずかの間、聞き惚れる。それから、やっと掛けられた言葉の意味を理解した。
こんにちは、それはもっぱら挨拶として使われる言葉のはずだ。つまり、それが意味することは。
とりあえず、声に聞き惚れている場合ではないのは間違いない。

「あっ、こんにちは!」

慌てて、声が聞こえてきたほうへ振り返る。聞き覚えのない声からして、声を掛けてきたのは見知らぬ人。そして、おそらくは自分よりも年若い相手。
ある程度の予測を立てて視線を彷徨わせた先には、確かに予想通りの姿があった。

「お兄さんは、ここで待ち合わせ?」

色素の薄い髪を長く伸ばして後ろで一本に結わえた少年が、にこやかな笑みを浮かべている。身にまとっている服はごく普通の、それこそスーパーで売っていそうなシンプルなものなのに、どういうわけか不思議な気品を放っていた。

(私より、何歳か年下……かな? すごく、しっかりしてそうな子だ)

物怖じせずに京一郎を見つめてくる視線は、どこまでも真っ直ぐだ。ごまかすことも、軽くあしらうことも許されないような強さがある。
さらに少年の整った顔は、なぜか京一郎にほんのわずかな畏敬を抱かせた。

「あ、はい、そうなんです。どうやら、少し遅れるみたいで」
「そうなのか。暑いのに大変だ」
「あはは、そうでもありませんよ。それに、待っている時間も楽しいので」

彼の後ろには、もっと年若い少年も佇んでいる。おそらく、年齢的には小学校低学年くらいだろうか。こちらを見上げて、大きな目を不思議そうに瞬かせていた。声を掛けてきた少年に面差しがよく似ているので、兄弟なのかもしれない。
よくよく見てみれば、小さいほうの少年は大きい少年の服の裾を、ぎゅっと握りしめていた。

(人見知りなのかな?)

小さい少年は、一言も発しない。でも、京一郎から視線を外すこともない。
じっと見つめてくる不思議な色の瞳に小さく笑いかけてから、京一郎は目線を大きい少年へと戻した。
黙っていると高貴、怜悧と表現したくなるどこか整いすぎた冷たい印象を放つその少年は、笑うと途端に年相応の少年といった雰囲気を纏う。人懐っこい、そして屈託のない、見ているほうまで心が浮き立つような、柔らかくてあたたかい笑顔の持ち主だった。
つられて、京一郎もつい笑顔になる。
それと同時に、間違っても子供扱いしてはいけないような、そんな神妙な心地にもなった。

「お散歩ですか?」
「うん。今日は大切な人の誕生日だから、その人が大切にしていたものを訪ねて歩いているんだ」
「へええ」

その道中で、声をかけてくれたということか。なんとなく、くすぐったい気分になる。
それとも真夏の真っ昼間に、公園の片隅でぼんやりと突っ立っていた姿が目立っていたのだろうか。もしくは、つい声をかけてしまうような気配を知らぬうちに放っていたか。

(それはない……とは言い切れないなあ)

心の中で、苦笑する。
確かに、時間に遅れると待ち人からメッセージが届いたばかりで、ほんのわずか気落ちしていたのだ。
仕事の都合なのだから、仕方がない。そのことで相手を恨むつもりも、まったくない。遅れはしてもちゃんと来ると約束してくれた、それだけで十分だ。
ただ、本心からそう思っていても、残念に思う気持ちが漏れてしまうことも否めない。今日の逢瀬を、とても楽しみにしていたからこそ。
一年に一度の記念日なのだから、一分一秒でも長く一緒にいたい。そう願ってしまうのは、仕方のないことだろう。
だからこそ、共に過ごせる時間が減ってしまえば悲しい。蜜月の時間を奪った仕事に罪はないとわかっていても、つい恨みがましい気持ちを向けてしまう程度には落ち込むものだ。恋する男というものは、とかく馬鹿なものである。それを、京一郎は我が事として痛感している。
だが、そんな気持ちも少年が声をかけてくれたことで、いつの間にかどこかへと消え失せていた。名前も知らない、どこか人を惹きつける雰囲気を纏う少年に、こっそりと感謝する。
そんな心の内を少年が知るわけもなく、彼は京一郎を見上げて眩しそうに目を細めた。

「ふふ。お兄さんもきっと、これから大切な人に会うのだね」
「えっ」

そんな少年の唇が紡ぐ言葉は、とても優しい音をしている。
なぜ、そんな風に感じるのかはわからない。でも、まるで掌中の玉を慈しむような愛しさが溢れていた。
だから、恥ずかしくても否定する気にならなかったのかもしれない。

「……わかりますか?」

素直に答えると、少年の笑みがぱっと明るくなる。年相応の、可愛らしく幼い笑顔だ。

「うん、輝いているから」
「……私が、ですか?」
「そう。きっと、お互いに大切だと思っているんだろうな」」
「だといいなあ……あ、私の待ち人も今日が誕生日なんですよ」
「そうなんだね。素敵な偶然だ」
「はい!」

浮き立つ気分のまま、勢いよく頷く。見上げてくる視線が、今までよりも柔らかくなった。まるで、懐かしい思い出を見つけたかのように。

(あれ……?)

なぜ、そんな風に思ったのかはわからない。
だから、続いて口から滑り出た言葉も、衝動の結果でしかなかった。

「あの……どこかで会ったこと、ありませんでしたっけ?」

この少年にも、連れのもっと小さい少年にも、見覚えはない。記憶力は悪いほうではないはずなので、忘れたわけではない――と、思う。
なのに、どうしてだろう。覚えがある、気がする。
確信など、どこにもない。会ったことなどあるはずがないと、理性はそう主張していた。それなのに感覚が、それに異を唱える。

(ああ、もう、わけがわからないな)

いきなりこんな意味のわからないことを口走るなんて、呆れられても仕方がない。つい、自己嫌悪に陥りかけて、気づく。

「いいえ、今日が初めてだよ」

京一郎の唐突すぎるそう答えた少年は、なぜか嬉しそうに笑っていた。



「すまない、待たせた……京一郎?」
「え……あ、はい? あ、開さん」

聞き慣れた声に名前を呼ばれて、振り返る。そこには、息を切らせた待ち人が不思議そうな顔をして立っていた。
この蒸し暑い中、遅れてしまったからと走ってきてくれたのだろう。それだけで、なんだか胸が熱くなる。もちろん嬉しさで、だ。
なので、ついそのまま幸福感に浸っていたら、さっと待ち人――館林開の顔色が悪くなる。

「どうしたのだ、ぼんやりとして。なにかあったのか? まさか熱中症……!?」
「ち、違います、なんでもありません。熱中症でもありませんから!」

本当に熱中症になっていたらそもそもこんな風にしっかり立ってはいられない、という指摘はしないでおいた。

「それならいいのだが……本当か? 私が来る前に、なにかあったのかと不安になった」
「本当です、なにもありません。通りすがりの方と、少し雑談していただけですよ」
「そうなのか」

通りすがりの少年たちは、少し前に京一郎を残してここから立ち去った。別れるときには、一言も発しなかった小さいほうの少年も京一郎に向けて小さな手を振ってくれたのが、少し嬉しい。
でも、ふと心を過ぎったあの感覚は、まだ残っている。
当の本人に否定されたというのに、だ。

「ただ……どこかで、お会いしたことがあるような気がして」
「知り合いだったのか?」
「いえ、そういうわけではないんです。初対面でしたし……どうしてそんな風に思ったんでしょうね」

故郷の桃木村に、ああいった洗練された雰囲気の子供がいた記憶はない。桃木村は、とにかく田舎なのだ。
田舎ゆえのよさも数え切れないほどあるとはいえ、ないものはない。

(やっぱり、わからないなあ)

わからないことが気になってしまうのは、性分だ。きっとこの先、しばらくこの妙な既視感は京一郎を悩ませるのだろう。
だが、今はそれよりももっと大事なことがあった。

「そうそう、その人たち、今日は大切な方のお誕生日なんだそうですよ」
「ほう」
「開さんと同じ日ですね。お誕生日、おめでとうございます」

ずっと心の中であたためてきた祝いの言葉をやっと口にして、京一郎は笑う。
今日は誰よりも大切な、愛しい人の誕生日。

「ありがとう、京一郎。今日という日をお前と過ごせることが、なによりも幸せだ」

相手も同じように思ってくれることが、こんなに嬉しい。
心から幸せそうな館林の笑顔を見上げて、京一郎も惜しみない笑みを披露した。



「ねえ、館林がきたよ」
「そうだね」
「話、しなくていいの?」
「うん」
「柊とは話したのに?」
「うん」

遠くから、ふたりの姿を眺める。その眼差しは、歳に似合わぬ慈愛に満ちていた。
夏空の下で手を繋ぎ、めでたい日を祝う彼らには、かつての記憶はない。一度は生を終え、黄泉の門をくぐったのだから当然のことだ。
それでも、彼らが抱いていた魂はあの頃のままだった。それがこうやってわかるのも、きっと母がもたらした血の力なのだろうけれど。

「今、彼らが幸せなら、それでいいんだ」
「ふぅん?」
「私たちも、幸せだから」
「……? うん」

昭羽は、もうだいぶ前に終わった。昭羽の終わりと同時に、彼らは奥宮から解放された。
もう、ひっそりと隠れて生きる必要はない。
こうやって、行きたいと思えばどこにでも行くことができる。
大切だった者たちの今の姿を、こうやって遠くから眺めることもできる。
先刻のように、話しかけることだってできるのだ。
だから、今はいい。恋人たちの邪魔をする気も、毛頭ない。
それでも、この日を祝う気持ちは本当のものなので、

「誕生日おめでとう、館林」

そっと、風に乗せて呟いてから。
かつて天司と呼ばれた少年は、己よりも小さな双子の兄の手を強く握った。

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