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1/28るーしこ新刊

自分がFateで本を出すことになるとは思わなかった……。
スペースは東3・ヒ05b「ACFです。

はなのきおく1◆花の記憶 Ⅰ
B6/フルカラー表紙/オンデマンド/30P/予価300円

Fate/Grandのロマニ×ぐだ♂小説本です。はい、ロマぐだ♂です。
序章クリア後の短編「天文台で朝顔は花開く」、1章クリア後の小話「雛罌粟の夢」、1部のどこかの時点の小話「蕾が花開く」の3本立て。「天文台~」と「蕾~」は加筆修正はありますがwebに掲載したものの再録です。

基本的になにも起こらない淡々とした×表記詐欺の友情話ですが、書いている人的にはロマぐだ♂のつもりです。たぶん数冊続きます。
ついでに書いている人がロマぐだ♂沼に足を突っ込んだトドメが終局特異点なので、最終的にはそういう話になります。

通販はイベント後に余ったらBOOTHに突っ込んでおきます。たぶん自家通販とBOOTHあんしんパック2通り置いておくので、お好きな方をご利用ください。

サンプルというかPixiv初出分「天文台で朝顔は花開く」全文は以下に。たたんでおきます。
誤字直ってないし主人公の名前も違いますが(web分は藤丸立夏、本は藤丸立香)、基本は同じですので雰囲気はこんなもんです。


【天文台で朝顔は花開く】

「……う、あー……」
 なんとか上着だけは脱いでその辺に放り投げ、ぼふんと音を立ててベッドに倒れ込めば、予想外なシーツの冷たさが頬を撫でた。
「冷たい……」
 きちんと空調が働いていても、無人の部屋はどことなく冷えるものだ。それでなくても、一時期ここの電源は落ちていた。すぐに復旧していたはずだが、居住区の空調よりも優先しなければならないものはいくらでもあっただろう。さもあらん、というところか。
「……はぁ」
 ごろん、と寝返りを打てば、天井が視界に入る。さすがというかなんというか、染みひとつない。
 べつにここ一、二年のうちに作られた施設というわけではないはずなのに、この部屋はやたらと綺麗だ。単に、今までこの部屋に住んでいた人がいなかったからかもしれないが。
「あれ? でもドクター、ここが自分のサボリ場って言ってたよなあ……?」
 サボリ場所に認定はしていても、そう頻繁に利用していたわけではないのだろうか。毎日使われていたにしては、ここには生活感というものが皆無だった。
 ベッドもきちんとベッドメイクされていたし、備えつけられたデスクや椅子、棚などもしっかり整えられている。あの現場に偶然遭遇しなければ、この部屋がサボリ場所として使われていたなど想像もしなかっただろう。
「ま、そんなことはどうでもいいか……寝よ」
 そう、今の自分――藤丸立夏に与えられた最優先すべき任務は、眠ることだ。明朝から始まる重要なオーダーに、間違っても支障をきたさないように。
 履きっぱなしだった靴を脱いでから清潔なカバーに包まれた掛け布団をかぶり、ごそごそと寝返りを打って落ち着く体勢を模索する。数分後にしっくりくるポジションを見つけて、立夏はおもむろに目を瞑った。
 それから呼吸を落ち着けて、脳内でころころと転がる羊の数を数えて。
「…………」
 ――困った。そこまでやっても、眠れない。
「ええぇ……?」
 目を閉じたまま何度か寝返りを繰り返してみても、まぶたの裏で思い浮かべる光景を他のものに変えてみても、どういうわけか眠ることが出来ない。
「なんで?」
 眠気は、間違いなくある。自室に戻ってくるまでは目を開けているのが辛いほど、それは立夏の身を苛んでいた。こうやってベッドに潜り込めば、すぐにでも意識を飛ばせるほど疲れていたはずだった。
 事情すらよくわかっていないまま半ば拉致されるような勢いで雪山のただ中に建つ人理継続保障機関フィニス・カルデアの門をくぐり、いくつかの出逢いを堪能する暇すらなく大がかりな爆破に巻き込まれ、気づけば何処とも知れないところへ飛ばされた。そこで目の当たりにしたのは、いまだかつて想像すらしたことがなかったような惨憺たる光景だ。
 つい最近まで、正確に言えば今なお紛うことなき一般人でしかない立夏には理解どころか現実として受け止めることすらいっぱいいっぱいの出来事が、立て続けに起こっていた。心身共に疲労困憊するのは、当たり前のことだ。
 しかも、突発的に発生したファーストオーダーをなんとかやり遂げ、こうして無事にカルデアへ戻ってくることはできたものの、かの地でなんだかんだ言いつつも立夏を叱咤激励しずっとサポートしてくれたオルガマリー・アニムスフィア所長は、消滅した。それも、おそらくはどうしようもないほど深い失意の中で。
 立夏は、それを目の当たりにした。目を逸らすことすら、出来なかった。
 赤く燃えるカルデアスに所長が溶けていく様は、これ以上ないほど残酷な結末なはずなのに、さほど恐ろしさは感じなかった。視覚的なグロテスクさが欠けていたからかもしれない。なにしろ血も流れなければ、四肢が千切れるようなこともなかったのだから。跡形もなく、塵ひとつ残すことなく、消えてしまった。
 ただ、そのせいだろうか。現実味のなさゆえに視界からの衝撃が少なかった反動なのか、所長の悲痛な叫びが耳について離れない。
 まだ、誰にも褒めてもらっていない。誰にも愛されていない、と。
「……うぅ」
 立夏は、紛うことなき普通の人間だ。特出した能力を持たない、ただの一般人である。ここに連れてこられる際の説明によるとレイシフト適性はやたらと高いらしいが、魔術師としての力はほぼないに等しい。つい最近まで、魔術師と呼ばれる人たちが存在することすら知らなかったくらいだ。
 そんな立夏でも、褒められたことは何度もある。家族に愛されている自信も間違いなく、ある。むしろ、立夏にとってそれらは特別でもなんでもなくて、それまでごく当たり前に与えられていたものだった。
 所長はちょっと面倒な性格をしていたけれど、それを差し引いても優秀な人だったと思う。魔術というものに疎い立夏には詳しいことはわからないが、そもそもあの歳でこのカルデアという組織の頂点に立ち、率いてきた人物なのだ。優秀でないわけがない。
「……立場が偉すぎるのも大変なんだろうな」
 優秀であって、当然。きっと、そういうことなのだろう。立夏には別世界すぎて実感が湧かないが、そうであるなら褒められる機会なんてものはほとんどなくなってしまうのかもしれない。
 限りなく一般人である立夏には、よくわからないことだらけだ。とはいえ、所長もド素人でしかない立夏に理解されたいとは思っていないだろう。むしろ、一緒にするなと怒られそうだ。
 ただ、今の立夏にも理解できることが、ひとつだけある。ものすごく疲れているはずなのに眠れないのもきっと、それが原因だと思われた。
 それは、重圧だ。自分にしか出来ない、責任重大な任務が立夏を待っている。
 本来はより頼りがいのある、経験も専用の訓練も積んだマスターたちがやる予定だった任務だ。一般枠でほぼ数合わせ同然に採用された立夏には、しばらく縁のない話のはずだった。
 だが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。今、このカルデアでレイシフト適性を持っているのは、マスター候補生なりたてで正直なところ右も左もわかっていない、自分しかいないのだ。
「イヤだってわけじゃないんだけどな」
 ひとりごちて、もう何度目か覚えていない寝返りを打つ。真っ白い天井が、まぶしい。
 自分では役者が不足している、とは思う。その自覚はあっても、だからといってやらない、辞退するという選択肢は存在しなかった。立夏がやらなければ、人類は滅ぶのだ。上手くできる自信はないものの、それで大切な人たちを助けられるなら努力は惜しまない。
 立夏は、そこで尻込みする性質はしていなかった。前に進めるのなら、いつでも全力で突き進む。たとえそこに道らしい道がなくても、だ。今まで、ずっとそうしてきた。
 不安がない、と言えば嘘になる。むしろ、不安だらけだ。取り返しがつく失敗、己にしか影響のない失敗ならどんとこいだが、失敗の影響が周囲にまで及んだり取り返しがつかないことになってしまう可能性を考えると、さすがに心が少しは躊躇する。
 なにしろレイシフト経験なんて一度しかないし、しかもあれは事故だった。結果的になんとか特異点を修復できたとはいえ、正直なにをしたかもよくわかっていない。あまりにも知識がなさすぎるのだ。
「……まあでも、やるしかないし」
 なのだが、立夏はそのあたり、意外と単純だった。効率的、とも言う。
 出来るなら、失敗なんてしたくない。特に、新米にもほどがある自分を先輩、さらにはマスターと慕ってくれるマシュ・キリエライトに余計な負担は背負わせたくない。でも、それで足を竦ませていたらすべてが消えてなくなるのだ。
 だとすれば、転んで怪我をする覚悟くらいは最初からする。怪我をしようがなんだろうが、自分が死にさえしなければとりあえず希望は消えないということは理解していた。それさえ保障されるのであれば、ある程度は気も楽になる。為せば成る、なるようになると割り切ることが出来る。
 それなのになぜ、眠れずに何度も寝返りを打っては天井を見上げてありもしない染みを探すような羽目に陥っているのか。
「やっぱり……アレかぁ」
 つまり、気が昂ぶっているというわけで。
 状況は少し違うものの、遠足前に興奮して眠れなくなるようなものだ。べつに楽しみにしているわけではないから厳密には違うのだが、分不相応の任務に当たることへの緊張が度が過ぎたことになった結果、似たような状態になっているのだと思われた。
 落ち着いて心身共に休ませねばならないと思えば思うほど、どんどん目が冴えていくというやつだ。悪循環にも程がある。
「うぅ、眠いのに」
 ぼやきながら、眠れないとわかっていて、もう一度目を閉じる。悪あがきなのはわかっていた。
 疲労のせいで頭の芯の部分はぼんやりとしているというのに、横になっていること、目を瞑っていることに猛烈な違和感が生じる。四肢がじっとしていることを拒否して、動きたがっていた。
「フォウッ」
「へっ? ぶっ!?」
 白い毛玉が視界を遮ったのは、そのときだった。モフモフした感触が顔面を覆っている。
「フォウフォウ」
「あわ、え、なに? 気持ちいいけど、って違う」
 ぺしぺし、と柔らかいもので顔を何度も撫でられていた。否、もしかしてこれは叩いているつもりなのかもしれない。だが、肉球でてしてしと叩かれてもあいにくダメージはゼロだ。
 今、どういうわけか自分の顔面に乗っかっているこの白い毛玉の正体は、立夏にもわかっている。カルデアの廊下でぶっ倒れていた自分が目を覚ましたとき、最初に出会った存在だ。
 あのときは顔を舐めて起こしてくれたというのに、今は顔面に肉球パンチとはだいぶ待遇が違う。まあ、まったく痛くはないのだが。
「フォウ君?」
「フォーウ」
 名前を呼んでみれば、叩いていたというよりはじゃれていた手がぴたりと止まる。かと思えば、白くて小さいふわふわとした身体は、尻尾を揺らしながら視界から消えた。どうやら、寝っ転がっている立夏の足元のほうへと移動したようだ。
「?」
「フォウフォウ、キュー!」
 つられて起き上がってみれば、今度は立夏の足の土踏まずにぐいぐいと額を押しつけている。まるで、立てと言われているようだ。
「立てって言ってる? え、なんで?」
「フォウ」
 よくわからないが、促されるままにベッドから降りて立ち上がる。裸足のまま靴に足を突っ込んだので、若干隙間があるのはこの際気にしない。
 さて、フォウは一体なにをさせたいのか? 首を傾げているうちに、今度は踵のあたりにフォウ君の毛並みがぶつかってきた。またしても、ぐいぐいと押されている。
「歩けってこと?」
「フォ~ウ」
 理由はさっぱりわからないが、どうせ眠れずに悶々としていた身だ。フォウになにかしてほしいことがあるのなら、付き合ってあげるのもやぶさかではない。
 そのまま、踵を押されるままに歩を進める。ベッドから真っ直ぐに進んだその先にあるのは、先刻入室すると同時にオートでロックされた部屋の扉。
 ロックは解除されていないので、扉の目の前で足を止める。これで、行き止まりだ。
「わっ?」
 それとほぼ同時に、足首のあたりに今までよりも強い衝撃を感じた。フォウが、全身を使って体当たりしてきたのだ。
「フォウ!」
「……え? 出ろって?」
「フォウフォウ」
 戸惑っている部屋の主を後目に、フォウは身軽な動きで立夏の身体を駆け上がる。肩までたどり着いたと思ったらぴょんと跳ねて、そのまま扉のロックを解除するパネルへと体当たりした。
 軽快な音を立てて、ぴたりと閉じていた扉が勝手に開く。音もなく床に着地したフォウは、またしても立夏の背後に回るとその場に行儀よくお座りする。
 さっさと部屋を出ろ、しばらくこの部屋に帰ってくることを禁ずる、フォウは全身でそう主張していた。
「ええー……?」
 あいにく、この部屋には窓がない。外の様子がわからないため実感は少ないのだが、一応今は深夜に該当する時間のはずだ。そうである以上、さほど長くない時間内で万全の休息を取らなくてはいけない身としては、部屋の外に出ることは少々気が咎める。
(でもなあ)
 どうせ、このまま部屋で悶々としていても眠れそうにないこともわかっていた。だとすれば健康な眠りを手に入れるために、今はフォウに追い出されるまま少しばかりカルデア内をうろついても許されるのではないだろうか。そう、今現在、まさに仕事に追われている人たちの邪魔さえしなければ。
「うん、だよね。部屋で腐ってても眠れないもんは眠れないんだし」
「フォウフォウ~」
 立夏が前向きになったことを察したのか、足元から聞こえてくるフォウの鳴き声もなんだか機嫌がよさげなものになる。
「じゃあ、アテもなく冒険に行ってくるかあ。留守番よろしく頼むよ、フォウ君」
「フォウ!」
 部屋の入口に陣取ったフォウは、立夏の声に応えるようにぱたりとふさふさの尻尾を揺らした。




「えっ、あれっ? 立夏君?」
「げっ」
 ぽかんと口を開け、目を丸くするロマニ・アーキマンの姿を前にしてすぐさま己の口を塞いだ自分自身のとっさの判断力に、立夏は心の中で賛辞を送った。それはもう盛大に。
 なにしろこのドクター、優しくて気弱げな第一印象を違えることなく、繊細なのだ。顔を合わせるなりこんな反応をされたと気づかれたら、地の底より深く落ち込んでしまう。
(あわわ)
 もちろん、ロマニが嫌い、というわけではない。ただ単に、この状態で顔を合わすのがこれ以上ないくらいに気まずいのだ。なにしろ部屋に戻ったあと着替えもせずベッドに倒れ込み、眠れないままフォウに部屋を追い出されたので、結局まだカルデアの制服を着たままである。
 特異点Fから無事に帰還してきた立夏を前にして、誰よりも真剣な顔をしてゆっくり休むように念を押してきたのは、このドクター・ロマンだった。
 カルデア医療部門のトップであり、今現在は暫定的にカルデアの最高責任者でもあるロマニの命令に背く気は、今のところまったくない。右も左もさっぱりわかっていない立夏に指示と助言を与え、導いてくれているのは間違いなくロマニである。その事実は、知識もなにもないまま極限状態に放り込まれた立夏にこの上ない安心感をもたらした。
 つまり、そんな彼にこう見えて多大な感謝の気持ちを抱いている立夏としては、言うことを聞かずに休みもしないでウロウロしている、などという誤解はして欲しくないわけだ。自室で休まずにウロウロしているのは事実だが、寝るための努力はちゃんとした。
(しかも、努力中にフォウ君に追い出されたし)
 どちらかといえば、被害者だ。そう主張したい。
 そう、思っていたのだが。
「どうしたんだい、こんなところで? 迷子ってわけでもなさそうだし……ああ、もしかして眠れない?」
「え。あ、はい、じつは」
「そっか、やっぱりなあ」
 立夏のごく一般的な想像力では到底追いつけないくらい、ロマニはドクターとして優秀だった。ひと目見ただけで、現状を言い当てられてあ然とする。
 時間的には夜中であるせいなのか、それとも爆発のせいで多大なダメージを受けたせいで未だ完全には復旧を果たしていない発電所への負担を軽減するためなのか、昼間よりも明るさが落とされた照明に照らされたカルデアの廊下で、立夏はまじまじとロマニの顔を見上げた。
「……やっぱり、ドクターってちゃんとお医者さんなんだ……」
「えっ、もしかして疑われてた!?」
「や、そういうわけじゃないんですけど」
 第一印象は確かに、優秀かつ有能そうなイメージからかけ離れていたとは思う。
(なにしろこの人、堂々とサボってたもんなあ)
 それも、他人の部屋で。
 すぐにその印象は覆されたものの、あのとき非常事態が発生しなかったら、彼のイメージはずっとあのままだった気もする。
(まあ、それはそれで親しみがあっていいのか)
 それに、ロマニがあの部屋でサボっていてくれたからこそ、あのとき会うことが出来た。中央管制室から遠いあの部屋にいたから、あそこでのんびりと立夏と雑談をしていたから、ロマニは生き残った。
 ――所長とは、違って。
「……えっと、なんで眠れなくてウロウロしてるってわかったのかなって」
 意識を逸らすべく、声を出した。それは今、考えることではない。
 考えたところできっと答えは出ないし、ますます眠れなくなるだけだろう。それでは、彼女の遺志を継ぐことすら出来ない。
「そりゃあ、顔を見ればわかるよ。それに、人間っていうのは疲れすぎても眠れなくなる生き物でね」
 とっさに逃げを打った立夏を穏やかに見つめるロマニの目は、慈愛に満ちていた。
 心の中で、ホッと息を吐く。なんとなく、このゆるふわな笑みを眺めていると安心するのが不思議だ。
 ロマニは医療部門のトップのはずなのに、偉い立場にいる人にありがちな貫禄とか迫力とか威圧感とか、そういうちょっとばかり近寄りがたい気配がまったくなかった。見事に欠けている。
 そのせいでいるだけで緊張感に欠ける等と所長には言われていたそうだが、今はその柔らかい雰囲気がありがたかった。
「今日はキミにとって、最初から最後まで刺激の多すぎる日だっただろうからね。キミの身体がキミ自身を守るために、そういう状態にしてるんだ。量子ダイブの副作用で強制的に睡眠を取る羽目になったのも悪影響を与えてるんだろうなあ……ちょっと落ち着けば、すぐに眠気がやってくるよ、安心して」
「ですかね……」
 ロマニの顔を見て、ついでに声を聞いているだけですでになんとなく落ち着いてきていたので、その言葉を疑う気はない。
 ただ、そのためにロマニをここで足止めしているのが心苦し気はしてきた。立夏やマシュが休息を義務づけられている間も、確かロマニにはやることがあると言っていた気がするからだ。
(だよなぁ……ここ、大きな施設だし、半分くらい壊れてるし)
 中枢であるカルデアスに関連する設備は緊急で復旧が行われていたはずだが、マスター候補たちはもちろん技術者もかなりの人数が爆破に巻き込まれて命を落としている。残された人たちが部署関係なく、出来ることをそれぞれするしかない。本来は医者であるロマニにも、カルデアの最高指揮官としてやらねばならないことは山積みのはずだ。
 やはり、邪魔をしている場合ではない気がする。ロマニが廊下にいるということは、やはりどこかへ行く途中だったのではないだろうか。それこそ管制室とか発電所とか、そんな重要なところに。
(戻るかぁ)
 少しは気分も落ち着いた気がするし、部屋で番人をしているフォウにも納得してもらえるかもしれない。頭の隅でそんなことを考えながら口を開こうとして、立夏はロマニに先を越された。
 というか、それどころではなくなった。
「そうだなあ、とりあえずせっかくここまで来たんだしよかったら寄って行くかい? コーヒーはカフェインが逆効果だから出せないけど、たしか貰い物のハーブティーがあった気がしなくもないし」
「へっ? えっ?」
 言われて、やっと気づく。視線を上げれば、確かにそこには医務室を示すプレートが掲げられていた。
「ええええ!? ここ、医務室!?」
 医務室は、比較的中央管制室に近い。立夏に与えられた部屋から管制室までは、どれだけ急いでも五分以上かかる。しかも歩いて、だと……?
「あれっ、やっぱり迷子だった?」
 ――そういえば立夏は、まだカルデア内の構造をほとんど把握していなかったのだ。




「はい、どうぞ」
 目の前に置かれたカップからは、ほのかなリンゴに似た香りが立ち上っている。先刻ロマニが言っていたハーブティーだろうな、というのは見ればわかった。カモミールティーというらしい。
「ありがとうございます……?」
 リラックス効果があるハーブティーだとかで、今の立夏にはピッタリなものだ。爽やかな香りも、気分を軽くさせる。
 なのになんとなく違和感があるのは、たぶんその隣にあるもののせいだろう。手頃な皿が見つからなかったのか、どう見ても薬包紙の上にちょこんと鎮座しているのは、おそらくは日本で生まれ育った立夏だからこそ見慣れているモノ――その名も温泉饅頭である。
(ハーブティーもお茶だし、組み合わせ的には悪くないのかもだけど……でも、なんで温泉饅頭?)
 ここでクッキーなどの焼き菓子が出てくれば、これ以上ないほど納得できる。最初に会ったときだって、ロマニは確かケーキを頬張っていた。
 なのに、和菓子。しかも、温泉饅頭。温泉地に行けば場所問わず大体どこにでもあるが、地味に都心部では売っていないものだ。地方銘菓の中では比較的賞味期限も長いほうだった気はするものの、ある意味マニアックだと言える。
(それなりの人数が長期間過ごす前提なんだから、まあ嗜好品だってそれなりに充実させてるってことなのかなあ?)
 じつはカルデアがどこにあるのか、立夏はきちんと把握していない。
 ただ、五千メートル級の山の頂上近く、雪に埋もれるように建っているということは知っている。そんな僻地に物資を運ぶのは、さぞかし大変だろう。なるべくその労力を削減するため、施設内で自給自足できるよういろいろ努力が重ねられているのもわかる。それくらいの想像力はある。
 ただ、それらとこの温泉饅頭が、立夏の頭の中ではどうにも重ならない。たぶん、誰かの好物なのだろうとは思う。
「あ、これ? 今日届いたばっかりのヤツなんだよ。たぶん、立夏君と一緒に届いた物資の中に入ってたんじゃないかな」
「はあ」
 あまりにもじっと見つめてしまっていたせいかロマニが説明してくれたが、なんで温泉饅頭が物資の中に入っていたかまでは教えてくれなかった。立夏が知らないだけで、じつはカルデアには日本人が多かったのだろうか。
「じつはボク、お饅頭が大好きでね。日本から物資がくるときは、ねだって入れてもらってるんだ」
「……あ、ドクターでしたか」
「えっ?」
「いえ、なんでも」
 無邪気な笑顔で嬉しそうに温泉饅頭から包装用のフィルムを剥がしているロマニを見てしまうと、無粋なツッコミを入れる気力も失せた。
(まあ、美味しいもんな、温泉饅頭)
 温泉地で作っている、もしくは売っていれば温泉饅頭を名乗れるので、それこそ多種多様だ。立夏はスタンダードなこしあんいりの薄皮饅頭が好きだが、ロマニも似たような嗜好らしい。幸せそうに、茶色の小さな饅頭を口にしている。
「たくさんもらったから、いくつか部屋に持って帰るといいよ。これくらいならレイシフトに持って行っても特に影響は出ないし、非常食のかわりくらいにはなるからね」
「そうなんだ……じゃあ、もらっておきます。ありがとうございます」
「うんうん、甘いものは幸せになれるからね。リラックス効果も抜群だよ」
 寝る前に甘いものを摂取するのはどうか主張する理性と、ドクターの厚意だしそもそも今日まともに食事を摂取した記憶がないのだからこれくらいのカロリーは問題ないと論破しにかかる本能の争いは、脳内で本能に勝利を出した。目の前で美味しそうに食べているのを見て我慢できるほど、立夏は我慢強くない。
 それにしても、だ。饅頭をこんなに幸せそうに頬張る人を、初めて見た。
(なるほど、ドクターは甘党……)
 頭を酷使すると糖分が恋しくなるらしいから、そのせいだろうか。そんなどちらかといえばどうでもいいことを考えながら、お茶請けとしてこの場では温泉饅頭をひとつ食べることに決めた。一応、理性の主張も鑑みてみたのだ。
 残りは部屋に持ち帰ろうと、ポケットの中に突っ込んでおくことにする。柔らかい饅頭が潰れてしまわないようにそろそろと注意深くしまい込もうとして、指先にふと固いものが触れる。
「……ん?」
 なにかと思って引っ張り出してみたら、それは紙で出来た小さな平べったい袋だった。しかも、やけにカラフルだ。とりあえず、記憶にはない。
「うん? どうかしたのかい?」
「いえ、ポケットの中にコレが入ってて……」
 カラフルな袋には、文字も書かれている。文字は日本語だったので、立夏にも普通に読めた。
 ――読めたのだが、ますます意味がわからない。
「…………種? アサガオの? え、なんで?」
「アサガオの種? ずいぶん変わったもの持ち歩いてるんだね、立夏君」
「や、持ち歩いてたわけじゃ……?」
 とは言うものの、ポケットの中に入っていた以上、持ち歩いていたことになるのだろう。制服のポケットに入っていたということは、少なくともこの制服を着て自宅を出た後で――そういえば、迎えの車に乗せられる前にたまたま通りがかった花屋の前で、試供品をどうぞとか言っていた人になにかを渡されたことを思い出した。
「あ、あのときのアレか。花屋の前通ったら、試供品くれたんです。そのまま、ここに来たから」
「へええ。今どきの花屋さんって前通っただけでサービスで種くれるんだ?」
「俺も種もらったのは初めてですけど」
 というか、種をもらっても正直、どうすればいいのかわからない。あいにく、立夏には植物を育てる才能はあまりなかった。サボテンでも枯らす自信がある。
 それに、よくよく考えたらすぐに長期間のレイシフトに赴く身だった。長い時間カルデアを留守にすることがあるのに、アサガオを育てるなど絶対無理だ。
 植物に愛がないわけではないので、枯らしてしまうとわかっていて育てる気にはなれない。だからといって種のままずっと死蔵しておくのも気が咎める。どうせなら、ちゃんと花を咲かせてあげたい。そして、その花を見てみたい。マシュならちゃんと育ててくれるだろうが、長くカルデアを空けることになるのは自分と同じだ。
 ――そこで、ふと思いついた。
 多忙さで右に出る者はいないだろうが、少なくともこの人がカルデアから動くことは、絶対にない。
「うーん。俺が種蒔いても枯らしちゃいそうなので、ドクターにあげます。お茶と温泉饅頭のお礼です」
「えっ。でも、もらったところでどうすれば?」
「育ててみるといいと思います! 俺、アサガオの花見たいなー」
 それは、軽い気持ちだった。特に深い意味はなかったけれど、でも嘘でもなかった。
 このままでは2017年を迎えられないという極限状態で、それどころではないとわかってはいても、花が見たいと思ったのだ。きっと、本当にそれどころではないから。
「育てる……育てるかあ、でもカルデアの中で育つのかな? たしかアサガオって夏の植物だよね? あ、そういえば温室あったっけ。無事かな、あそこ」
 もしかしたら、その気持ちが伝わってしまったのかもしれない。軽く流されると思っていた提案が、なんだか真剣に検討されている。
「えっ。そ、そこまでしなくても?」
「いやあ、せっかく立夏君がくれたんだし」
 にこやかに、朗らかに、ロマニが笑う。年齢が倍くらい違うというのに、友達が出来たと無邪気に喜んでくれたときと同じ顔だった。
 どう見ても、自分より大人なのに。医療部門のトップという、本来であればかなり偉い人なのに。頭の出来だって立夏とは比べものにならないほど良い天才のはずなのに。
 ――なんだか自分と同い年くらいの少年のように見えるときがあるのは、どうしてなのだろう。
「……じゃあ、花が咲くの、楽しみにしてます」
「うん、任せて」
 立夏からアサガオの種を受け取ったロマニは、最初戸惑っていたのが嘘のように嬉しそうだ。
 ただでさえ多忙なはずなのに、結局ロマニがやることを増やしてしまったような気がして少々良心が咎めるのだが、ロマニ本人が楽しそうだからこの際いいのだろうか。いいことにしたい。
(カルデアにいるときは、水やりくらい手伝おう)
 それ以上手を出すと、立夏のあまり褒められない特技が発動してしまって枯らしてしまいかねないので、控え目に。水やりも、水をやりすぎて根腐れさせないように注意して。
 自分にそう言い聞かせながら、もらった温泉饅頭をひとくちかじる。ふんわりと、口の中に優しい黒糖の甘さが広がった。
「……美味しい」
 それは、ホームシックとは少し違っていたけれど、間違いなく故郷の味で。
(これも、取り戻そう)
 今夜、立夏の中でもうひとつ、世界を救う理由が、増えた。
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